『伝えたいこと9』



泣き崩れる俺を支え、ゾロは無言で俺の部屋に入った。
それから俺を部屋の真ん中に座らせると、台所へ行き、俺の為にココアを作って持って来てくれた。
「ほら、飲め。少しは落ち着くぞ。」
少しだけ口にしたココアは、ほろ苦くて、でも温かくて。
ゾロの言う通り、何だか落ち着いてきた。
チラッとゾロを見ると…ああ、なんかドキドキする。
こんな時なのに、ゾロへの想いは膨らむ一方で。
なんでこんなことになったんだろうと後悔ばかりしてしまう。

「ウソップ。」
「え?あ、はい!?」
不意に声をかけられて声が裏返る。
「落ち着いたか?」
「あ…う、うん…。」
ゾロの目は優しくて…でもなんか悲しそうで…俺のせいなんだよな、多分。
ホントなら、こんな風に話す資格だってないよな、俺には。

今更、隠したってしょうがない。
みんな話した方が俺も諦めがつくかもしれない。
それは俺の勝手な考えで、ゾロもサンジも傷付けてしまうことなのかもと思う。
だけど、俺はこのゾロの瞳に嘘をつけそうになかった。
話さなければならないと思った。
深呼吸を一つすると、俺はボソボソと話し始めた。

ゾロとケンカした次の日、サンジがやってきたこと。
みんな話したら、急に怒り出して、俺を好きだと言って抱き締めたこと。
それから…
「求められて、俺拒めなくて…許しちまった。」
「ウソップ…。」
気が付いたら、俺はゾロの左手の袖を掴んでいた。
震える手で。
「こんな俺なのに、サンジ真剣で。俺どうしても抵抗出来なくて。
 だけど…返ってサンジを傷付けてしまったみたいだし…何より…」
俺はゾロの顔を見た。
「ゾロには本当にもう会えないって思ったんだ。」
混乱する思考の中で、俺は必死に話していた。
「もう別れたんだから、当たり前なんだけど…俺、サンジ傷付けて、ゾロも裏切って…
 ホント最低だなって…もう俺なんかいっそ居ない方が良いんだって思えてきて…。」

突然、俺の右手をゾロがギュッと握った。
「んなこと言うなよ、違うだろ。」
何を言われているのか分からなかった。
だけど、ゾロは少し怒っているように見えた。
「違うって。最低じゃねぇよ。お前は、優し過ぎるんだ。人のことを考え過ぎてんだよ。」
冷たかった頬が、少しだけ温かくなったように感じた。
「もっとわがままになれよ。自分を大事にしてやれよ。じゃねぇとお前…壊れちまうぞ。」
「ゾロ…」
嬉しかった。
そんな風に言ってくれるのが有難かった。
でも…
「ううん、違わないよ。」
ゾロが思ってる程、俺はいい人間じゃない。
「俺、あの時、サンジの気持ちを利用したんだよ。ゾロと別れて、寂しかった。
 だから、サンジの暖かさを利用したんだ。俺は最低なんだよ、ゾロ。」

ゾロはうつ向いて、握り締めている俺の手を見ていた。
しばらく黙っていたが、不意に顔を上げた。
「お前をそうさせたのは俺だ。お前が最低なら、俺も最低だ。」
思いもよらない言葉だった。
身体が熱くなっていくのが分かった。
「ゾロ…」
「最低者同士、似合いのカップルじゃねぇか?」
ニッとゾロは笑った。

ゾロ、俺を許すのか?
許してくれるのか?
お前はそれでいいのか?
色んな想いが頭の中を駆け巡る。
申し分ない気持ちは強いけど、何よりも嬉しさが勝っていた。

俺は、ゾロの胸に飛込んだ。
「ゾロ…ゾロ…会いたかったよぉ…」
「ああ、俺もだ。」

ゾロの温もりは、ようやく取り戻した温かさだった。

 

 

 

 

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