『伝えたいこと8』



その先はよく憶えていない。
ルフィが何かを言っていたようだったが、全く耳に入らなかった。
腕に絡みつくルフィを振りほどき、真っ直ぐ、ウソップのアパートに向かっていた。
今度こそ、本当に本当に、ウソップが俺から離れて行ってしまうかもしれない。
怖い。
怖くて震えが来る程だった。
まだ俺は、ウソップに何もしていない。
まだ俺は、伝えるべきことを伝えていない。
だから、もう少しだけ、俺の話を聞いてくれ…。

ウソップのアパートの前に来てドアの前に立った時、ふと我に帰った。
急に来て、なんて言うんだよ。
サンジと付き合ってるのか?
サンジと…なんかあったのか?
なんて、聞ける訳ない。
「ああ、そうだよ。」
なんて言われたら、俺サンジをぶん殴りかねない。
どうする。
どうしよう。
どうする。
どうしよう。

そうやって、ドアの前でグダグダすること一時間。
いい加減、自分の情けなさに呆れた時、通路の向こうに人の気配がして振り向いた。
「ウソップ…。」
通路の向こうに立っていたのは、紛れもなくウソップだった。
凍りついたような表情、震えてるようにも見える。
やっぱり、来ない方が良かったのか。
俺達はもう駄目なのか。
こんなにも、こんなにも、お前のことが好きなのに。
お前がいなければ、俺はどうにかなりそうなのに。
お前にとっての俺は…そんなんじゃなかったのか。

その時、ウソップの口が動いた気がした。
目を凝らす。
やっぱり何か言っている。
その目は、哀しさと懺悔の念に満ちているように見えた。
こんな表情は見たことがない。
「ウソップ…」
俺の方から近づいて行く。
ウソップはゆっくりと左右に首を振った。
「や…駄目、来ちゃ駄目だ…!!」
その場を去ろうとするウソップの腕を素早く掴んだ。
「ウソップ!」
確かに、色々あった。
別れ話にはなっている。
お互いに少し避けたくなるのも仕方がない。
それにしたって、ウソップの表情は変だ。
辛そうな、何か罪を感じているような、俺の顔も見れないくらいに。
一言で言うなら…罪悪感。
やっぱり…と思う気持ちをなんとか振り払う。
信じたい気持ちがまだ勝っていた。

だけど、何も言わない、言えないウソップ。
「そんな顔したお前を…放ってなんかおけないだろ?頼むから、何があったのか話してくれよ。」
ウソップの肩が震え出す。
「ゾロ…ごめん、俺…」
絞り出すような声。
うつ向いてはいるが、泣いているのは分かる。
「だから、どうしたんだ?」
「俺…俺…」
顔を上げたウソップ。
顔面は蒼白。
涙でいっぱいの目。
ワナワナと震える唇。
やっぱりそうなのか、ウソップ…。

「俺、サンジに抱かれたんだ。」
「!!」

目の前が真っ暗になった気がした。
ウソップはもう、俺の手から離れてしまっていたのか。
もう俺は、ここに居てはならないのか。

ただ、泣きじゃくるウソップをそのままにはしておけない。
その気持ちだけで、俺はかろうじてその場にとどまっていた。

 

 

 

 

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