『伝えたいこと10』


「…へぇ、お前でも、そんな顔するんだ。」
「テメェ…殺されてぇか…」

ウソップは自分が悪いと言っていた。
俺だって、もっとちゃんとウソップを捕まえていたらと思った。
だけど。
それでも、そうと割り切れないのが、色恋沙汰ってもんだろう。

俺はサンジを許せない。
俺の同僚で、ウソップの友人で。
いいヤツだって思っていた。
俺達が付き合っているのもいつの間にか気付いたようだったが、
変な目で見ることもなく変わらずいてくれた。
何より、ウソップはサンジに絶大な信頼を寄せていたんだ。
アイツを裏切るような行為は、俺は絶対に許せない。

「ざまぁないね。恋人寝盗られたら、暴力に訴えるのか?」
サンジのさげすむような目が直のこと腹立たしかった。
俺は力一杯、サンジを殴った。
避けるでもなく、反撃するでもなく、サンジはそのまま倒れ込んだ。

「ウソップ、はな…一度も俺の顔を見なかったし、声も出さなかったんだ。」
その声は、泣いているように聞こえた。
「抱き締めてる間、ずっとそんな感じで。」
サンジはゆっくりと起き上がった。
「そのうち、なんか呟いてるのに気が付いて…そしたらウソップのヤツ、
  ゾロって、何度も何度も言ってやがったんだ。」
サンジの語調が徐々に強くなる。
「お前に俺の気持ちが分かるか?好きなヤツを抱き締めてるのに、
  違うヤツの名前口にされた俺の気持ちが!?」

「自業自得だろが。」
サンジが俺の顔を見る。
「…確かに。」
嘲るように、切なそうに、その顔は後悔が滲んでいた。

「許して貰えるとは思ってねぇよ。それほどのことだとも、理解してる。」
「じゃあ二度とウソップの前に現れるなよ。俺は、そいつを伝えに来たんだ。」
力なくサンジは頷いた。

それからもう一度俺を見ると、
「だから、頼むよ。」
と、懇願するかのような顔で言った。
「アイツ、お前と一度も外歩いたことねぇとか、そんな些細なこと悩んでんだよ。
 アイツに…ウソップに、そんな想いさせないでやってくれよ。」
「ウソップがそんなことを?」
意外だった。
ウソップはどちらかと言うと、付き合ってることを隠したがっているように見えたから。
だから俺はアイツのアパートで会うようにしていたのに。
「ああ。いつもそんな話だったよ。」

ふと、サンジがいつもどんな想いでウソップの話を聞いていたのだろうと思った。
好きなヤツが、違うヤツを好きで、いつもそいつの話を聞かされたとしたら。
それはかなりの精神的ダメージだ。
「ふうん。」
考えを廻らす。
もしかして、こいつを追い詰めたのは、俺なのではなかったのか。

「分かったよ。」
「ああ、頼むよ。」
サンジがようやく笑顔を見せる。
「但し、条件がある。」
「え?」
「お前、ウソップにホントのこと話して、ちゃんと謝れ。」
「ええ?!…そりゃ、そうしたいのは山々だか…」

戸惑うサンジの顔に、俺はもう一度、拳を当てた。
触れるように。
「ウソップのことだ。お前を許すだろう。そしたら、俺はもう何も言わねぇ。」
「ゾロ…」
「今度は正々堂々、ウソップ奪って見せろよ。」
もちろん、そうはさせねぇが。
クククッとサンジは笑った。
「お前って、ホント気持ちいいくらい自信家だな。」
そこがいいとこなんだけどな、と言いながら立ち上がる。

「それと、ルフィだけど。」
「ああ、あの子な。」
飛びきり元気のいい子。
「アイツも色々あって…悪いヤツじゃねぇんだよ。」
「そうか…。」
いい女、だと思ったのは本当だ。
俺と対等に付き合えそうな感じがした。
あの真っ直ぐな瞳。
想いが俺に突き刺さるようだった。
「もう一度、会っとくかな。」
「…お前…意外とタラシか?」
「違う。ちゃんと断るんだ。」
真っ直ぐなルフィに、真っ直ぐ向かい合いたい。
言うべきことは、言わねぇと、相手には伝わらない。
態度で表さないと伝わらない。
俺は、そのことを今まで知らなかったんだ。

 

 

 

 

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