『伝えたいこと4』



夕暮れが迫る部屋の中で、俺は鏡を覗き込んでいた。
「…ヒデェ顔。」
溜め息をついた。

 

結局あれから、ずっと泣き続けて朝になってしまった。
泣いても泣いても、まだこぼれる涙。
涙が渇れるほどって言うけど、渇れることなんてあるのか。
そう思うくらいに涙は後から後から溢れた。

こんな状態でとても外出なんか出来ない。
幸い今日は取っている講義もないし、バイトもないし。
俺は身体を引きずるようにベッドに潜り込んだ。
眠りたいけど、眠れない。
何度も何度も寝返りを打ち、昼頃になってようやくトロトロと眠気がやって来て…
気が付いたら夕方だった。

 

全部夢じゃないかと思った。
夜になれば、ゾロがやって来るんじゃないか、そう思った。
泣き腫らした顔が、現実に引き戻してくれたけど。
自分で決めたことだ。
誰を責めることも出来ない。
なのに溜め息が出る。
何度も何度も。

気持ちを切り替えようと、携帯を見た。
「あ、そうか。電源切ったんだっけ。」
電源を入れる。
着信音が鳴った。
「…サンジ。」
驚くほどたくさんのメールが届いていた。
全部サンジで。
順にメールを開いていく。
心配してくれてる文字が嬉しかった。
「アイツにも迷惑掛けたよな…」
仕事が終わる時間になったら電話して礼を言わないとな。

ドンドン!
「ウソップ!」
「んあ?!」
ドアを叩く音と、サンジの声。
ドアを慌てて開ける。
安堵した表情の直後、目が点になるサンジ。
「…ヒデェ顔。」
「…分かってるよ…。」

連絡の取れない俺のことを心配して、外回りのついでに寄ってくれたらしい。
「昨日のこと、ゾロに聞いても『知らねぇ』としか言わねぇし、
 お前は携帯つながらねぇし。」
全くお前らどうなってんだ、と言うサンジ。

俺は苦笑いして、夕べの事を全部話した。
それから、心配してくれた礼も。
黙って聞いていたサンジは大きな溜め息をついた。
「お前、相当馬鹿だな。」
「改めて言うなよ。」
言われなくてもよく分かっている。
「そんなになる程アイツのこと好きなんだろ?」
「…いいんだよ、もう。」
「だったら…そんな辛そうな顔すんな。」
「…ごめん。」
一瞬、サンジが辛そうな顔をした。
「ごめんだと?クソふざけやがって…」
「え?」
サンジがグッと握っていた拳を開いたと思ったら、あっという間にサンジの腕の中で。
サンジの鼓動が聞こえる。
強く、速く。
え?何、どうなってんだ?
『抱きしめられてる』
そう認識するまでにしばらくかかるほど、俺は驚いていた。

「アイツのためにそんな辛そうな顔、しないでくれ。
 それじゃ何のために俺がお前を諦めようとしてるのか分からなくなる。」

真っ白になった。
さっき以上に、この事態を認識するのに時間がかかった。
サンジの腕に力が入った。
「俺が…アイツ忘れさせてやる…!」
「え…サ、サンジ?!」
抵抗する間もなく、サンジは俺にキスをした。
いつからそんな想いを抱いていたのか…その想いを全て吐き出したかのような、そんなキス。
「ん…はぁ、や、やめ…サン…ジ…」
だけど。
身体の芯は熱くなり、俺の中心は反応していた。
頭は麻痺したかのように感情は鈍り、感覚が研ぎ澄まされていく。
次第に抵抗する気もなくなり、俺はサンジに身体を預けた。

 

ゾロ…。
お前、今何してる?
俺は…サンジに抱かれてるよ。

 

 

 

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