『切なる願い3』



それから…


ゾロはなるべくみんなの側にいた。
何か、思い出すかも、そんな期待を込めて。
黙って側にいるのは一味にとって以前と何ら変わりない。
ただ、ゾロの記憶がないだけで。

チョッパーは何度も問診を重ね、ゾロの記憶喪失は、自分のことと、人に関する記憶に限定されていることを突き止めた。
一般的な教養の記憶はあり、普通に生活するには問題なかった。
だが、当然の如くゾロはスッキリしない毎日を送っていた。
正直言えば、ルフィにここにいろと言われても、
本当にいいのだろうか、と言う思いをゾロは拭い切れずにいた。
航海士、狙撃手、コック、船医、考古学者、船大工、音楽家。
クルーには、皆役割があった。
自分が戦闘員だったことはウソップから聞いていたが、今、その役割を果たせないのは間違いないとゾロは自覚していた。
ゾロんだ、とルフィに渡された三本の刀。
三本。
どうやって使うのか、ゾロには見当もつかなかった。


そんな風にぐるぐると考えていたら、何だか疲れてしまって…
そう言えば、ウソップが言っていた、ゾロ(俺)はいつも甲板で昼寝をしていたって。
それ、いいな。
ぐるりと見渡して、一番良さそうな所に寝転がる。
心地よい風が吹いて、気持ちいい。
ゾロ(俺)は、いつもこんな風に思っていたんだろうか?


ふと、ナミが寝転がるゾロに目をやる。
「ねぇウソップ…ゾロが…昼寝してる。」
「ああ?昼寝くらいしたっていいじゃねぇか。」
ウソップが答える。
「そうじゃなくて!!ウソップ、チョッパーとロビンを呼んできてよ。」
「…なんか分かんねぇけど…呼んで来りゃいいんだな?」


呼ばれたチョッパーとロビン。
昼寝をするゾロを見て、ロビンが「あら。」と言った。
「ロビンも気が付いたのね!」
ナミが嬉しそうに笑う。
なんだなんだ?と顔を見合わせるウソップとチョッパーに、ロビンが微笑む。
「同じ、なのよ。」
「「同じ?」」
「まだ分かんないの?!前と同じとこで昼寝してんのよ、ゾロは!!」
あ!!
とチョッパーも気が付く。
「感覚を…身体が記憶している…」
「オイオイ、頼むから俺にも分かるように話してくれよ。」


つまり。
記憶はないけど、以前習慣としていたようなこと、又は好き嫌いのようなものを身体が覚えていて、同じように行動している…
のではないのか?


「ええっ、じゃあ…もしかして、記憶が戻るきっかけとかになったりするとか?」
「その可能性はあると思うな。確信はないけど。」
「マジかよっ!!」
にわかに盛り上がる。
戻るかもしれない、戻らないかもしれない。
それでも、何も考えずに過ごすことなんて出来ない。
自分達に出来ることをやろう、ゾロの為に。


「ゾロ!ゾロ!!寝てる場合じゃねぇぞ!」
ウソップに起こされてゾロが目を開けると、
ナミにロビンにチョッパーもいた。
皆笑顔だ。
「な…何でしょうか?」
ウソップは今しがた皆で話していたことを興奮気味に話した。
「何も手掛かりがねぇよか、ずっといいと思わねぇか?!」
「今みたいに、前と同じことをしてたら私達が教えてあげるわ!」
「記憶が戻るかは分からないけど、いい刺激にはなると思うんだ。」
「焦らずに、一緒にやって行きましょうね。」


かあっと顔が赤くなるのをゾロは感じた。
自分が何も覚えていないのが申し訳ないとさえ思った。
こんなにいい人達の記憶がないなんて…。
「あ、ありがとうございます。」
やっとの思いでゾロは答えた。


ナミが怪訝そうな顔をする。
「違うわ、ゾロ。」
「え?」
ナミは胸の前で腕を組んだ。
「もっとこう上から物を言う感じでさ。」
ウソップがニヤッと笑う。
「そうそう!ふんぞり返って眉を片方上げて『ワリィな!』って感じで!」
ウソップの物真似があんまり上手くて皆が声をあげて笑った。


ゾロだけは唖然として。
「お…俺、そんな感じでした?」
「そっくり!」
「正にあんな感じよ。」
「もっと悪人面だったけどね。」
また爆笑する皆に、初めは驚いていたゾロも、
次第におかしくなってきて笑いだした。


ふと、視線を感じてそちらを見る。
船の縁に座るルフィが目に入った。
(な、俺が言った通りだろ?)
そんな自信たっぷりの笑顔。
この船に、皆の側に。
ゾロは賑やかな甲板の上で、自分の居場所を見つけた。

 




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みんなゾロが大事で愛おしい。
そんな風に想われるゾロが、同じく愛おしいルフィ。


2009.12.24