『 a promise 9 − 俺達 − 』(ウソップ)
いつもの時間に図書館に向かう。
でも、今日は水曜日じゃないし、勉強しに行く訳でもない。
ゾロん家に行くための待ち合わせで、図書館に向かっている。
昨日の出来事。
ゾロが俺を抱き締めた。
強く、強く。
その腕と、想いが痛かった。
そして、怖かった。
自分の気持ちを認めるのも怖かったし、ゾロの気持ちを確かめるのも怖かった。
何より、この想い自体、あっちゃならねぇことだと思っていた。
ルフィが、俺の背中を押してくれた。
したいように、したらいいと。
俺は…どうしたいのか、未だに決めかねていた。
でも、ゾロに会って、ゾロの顔を見て、決めようと思っていた。
図書館に着くと、ゾロはもう来ていた。
「よう」
「おう」
やっぱり、ちょっと気まずい感じがする。
昨日会ってるのに、もう何日も会ってないような、そんな感じ。
「行くぞ。」
「あ、ああ。」
自転車でゾロん家に向かう。
お互いに何も話さない。
話せない。
空気が重い。
天気がいいのだけがせめてもの救いだった。
ゾロのアパートは、思ったより近くにあった。
中は整理整頓されていて、俺達の部屋とは大違いだった。
「綺麗にしてんだなぁ、一人暮らしとは思えねぇ。」
「そうか?一人だから綺麗なんじゃねぇの?」
やっと交わした会話にホッとしたのか、俺達は顔を見合わせて笑った。
「コーヒーでいいか?」
「ああ、貰おうかな。砂糖とミルクも出来れば。」
「なんだ、お子様だな、ウソップ。」
「ゾロから見たら俺なんかお子様だよ。」
「高三と高一で、二つしか違わねぇぞ?」
「その二つがでかいんだよ。」
そうなのか?という表情でクックとゾロが笑う。
そんな、表情一つ一つにドキドキする。
コーヒーを入れたゾロがソファに座っていた俺の隣に座った。
「ほら、コーヒー。熱いから気をつけろよ。」
「お、おう、サンキュ。」
コーヒーを受け取って一口飲む。
「美味しい。」
「だろ?」
ゾロが嬉しそうにフワッと笑う。
ああ、この顔。
何人も捕えて離さない。
俺はやっぱり、ゾロから離れたくない。
そう思うとなんだか急にゾロを意識してしまう。
そもそも隣に座ったことなんてないよな、いつも向かい合わせだから。
触れる肩と肩に電気が走る。
ドキドキする。
こんな気持ちになるなんて…。
い、言わなきゃ…ちゃんと、俺の気持ち。
「ゾロ、あんな…俺…」
「あ、ああ…」
ゾロが急に緊張した顔になった。
ジッと俺の顔を見る。
顔が赤くなっていくのが分かる。
どうしよう、どうしたらゾロに伝えられるんだろう…言葉が出てこない。
その時、ゾロが目を閉じた。
ゾロの、怖い位の真剣さが伝わってくる。
震える口にキュッと力を入れる。
大きく息を吸って、俺は話出した。
「ゾロに、その…抱き締められた時な、びっくりしたんだ。
スゲェ驚いた。でもな、嫌、じゃなかったんだ。そのことに一番驚いた。
怖いと思った。男相手に、俺何考えてんだよって、あり得ないだろって。
認めるのが怖かったんだ。認めて、引き返せなくなるのが。」
ゾロは動かない。
目を閉じたままだ。
「昔から、俺諦めるのだけは早くてさ。
どうせダメだからとか、俺なんかがとか、そんな感じでな。
で、スゲェ後悔するくせに、その気持ちを誤魔化して、
楽しそうにはしゃいでみたりしてきたんだ。それでいいんだって思ってた。」
話しているうちに、どんどん気持ちが溢れてきて、止まらなくなってきた。
「でも、初めて諦めたくないって思ったんだ。後悔したくないって思ったんだ。
諦めて後悔して終わりにしちまうには…俺の気持ちが大きくなり過ぎてて。
ゾロに出逢えたこと、ゾロへの気持ち、全部なかったことにしてしまうなんて絶対嫌だから。」
深呼吸、した。
「俺は…ゾロが好きだ。」
一瞬、間を置いて、スッとゾロの目が開いた。
「本気で言ってんのか?。」
低くて、甘い声。
その声に、ゾクゾクする。
「冗談で言えねぇよ、こんなこと。」
「そうか…」
ゾロが俺の手にソッと触れた。
その指先が震えていた。
俺の心臓が、壊れそうなほどバクバクと鳴る。
「…やばい、俺、スゲェ嬉しい。」
「ゾロ…」
「先越されちまったけど…ウソップ、俺もお前が好きだ。」
身体が震える。
涙が溢れそうだ。
「自覚したのは昨日だがな。嫌と言うほど、思い知らされた。
俺も認めるのが怖かったんだろう。」
ゾロが俺の目を見る。
その目は、とても柔らかくて、深くて。吸い込まれそうだった。
「…抱き締めても…いいか?」
「え?あ…ああ…」
ゾロがゆっくりと、俺に手を伸ばす。
そして、優しく優しく、俺を抱き締めた。
昨日みたいな強さはないけど、ゾロの想いは伝わってくる。
すげぇ嬉しくて、舞い上がってしまいそうなのに、なんでこんなに切ないんだろう。
胸が痛くて、ギュッと締め付けられるようで。
好きで好きで、好きって言葉じゃ全然足りなくて…なんて言っていいのか分からねぇ。
でも、これがきっと『好き』ってことなんだな。
「怖いか?ウソップ。」
「…ううん、怖くねぇよ。ゾロだから。」
ゾロがゆっくり身体を離して、自分のオデコを俺のオデコにくっつけた。
「俺、もう離してやれねぇけど?」
「うん、俺も離して欲しくねぇよ。」
ゾロが優しく微笑む。
俺も、へへっと照れ笑いする。
それから…
ゾロは俺に、唇が触れるだけの優しいキスをした。
なあ、ゾロ。
俺達男同士だから、いつか一緒にいられなくなっちまうかもしれねぇけど、
こうして同じ想いでいることは奇跡に近いことだから…
だから今はこの幸せを一緒に噛み締めよう。
一緒にいれるこの瞬間を、俺達の胸に刻もう。
引き返せねぇし、引き返したくねぇ。
俺達はもう、何も怖くはねぇよな。
上のイラスト、初描きゾロウソだったりしますが、いかがでしょうか?w
ねづみさんに「唇占有権」を主張しているようです、と言われて、なんか照れくさかったです。
ここまでで、一応終わったんですけど、一部の方に続き読みたいなって言われて(お約束だったとは思うけど)
調子に乗りまくって続くことになってしまいましたw
だからここまでが1部。
ここからは2部、となります。