『 a promise 10 − 秘密 − 』(ルフィ)
水曜日の放課後。
親友のウソップに頼まれて図書館へ向かった。
ウソップの恋人に会うために。
聞いていた場所へ行くと、緑色の髪の少年、ゾロが座っていた。
少年と言うには少し大人びていて、
青年と言うには何か危ういものを感じる…
俺のゾロを見た第一印象。
話には聞いていたが、確かにキレイだな…そう思った。
しばらく眺めたくなる、そんな感じだ。
視線に気付いたのか、ゾロが顔をあげた。
一瞬、怪訝そうな表情をしたが、すぐに何かに気が付いた顔をした。
「ルフィ、か?」
「へ?何で分かったんだ?」
「ウソップは絵が上手いなぁ、そっくりだよ。」
クックと笑うゾロ。
「そうなんだよ、ウソップは絵が上手いんだよなぁ。」
ウソップが褒められると、自分のことのように嬉しくなる。
ゾロは、ウソップが言うように見た目よりもずっと気さくな感じがした。
「で、そのルフィが、なぜここに?」
「あ、そうだった。」
預かっていた手紙を差し出す。
「これを渡してくれって、ウソップが。」
ゾロは手紙を受け取り、なぜ?って顔をした。
「ウソップさ、昨日の夕方の雨で、ずぶ濡れになったんだ。そんで、携帯ダメにしちゃって。
すぐに新しいの買いに行ったんだけど、アドレスとかみんな消えちゃってさ。
ゾロには明日会うからって言ってたんだけど、今朝から熱出して寝込んでんだ。」
「ウソップ寝込んでんのか?」
ゾロの表情が険しくなる。
「大したことはないんだけど、やっぱちゃんと寝とかないとな。
でも、ゾロが待ってるから行くって聞かなくてさ。で、俺が代わりに来たって訳。」
そうか、と少し安堵したような顔をした。
よっぽど待っていたんだろう、来ない理由が分かってホッとしたような感じだった。
渡された手紙に視線を移すと、さっと開いて読み始めた。
そして読み終えた時、ゾロがフッと笑った。
その表情。
なんて言ったらいいだろう。
正に目の前にウソップがいて、そのウソップに向けた笑顔、だったんだと思う。
愛しくてたまらない、そんな想いが伝わってきた。
俺は…その笑顔に釘付けになった。
なんだ、なんでこんなにドキドキするんだろう。
何か、見てはならないものを見た気がして、急にソワソワした。
「じゃあ、渡したからな。」
俺は早々に立ち去ることにした。
「ルフィ。」
ゾロが俺を呼び止める。
振り向くと、ゾロが言った。
「すまなかったな、わざわざありがとう。」
そして、フワッと笑った。
胸騒ぎがした。
ザワザワと胸の奥を何かが駆け巡る。
「大したことじゃねぇよ、じゃあな。」
必死で平静を装う。
なんだ、なんだよ。
ドキドキする、アイツの、ゾロの一挙一動に。
なんで、なんでだよ!
なんでこんなに切なくなるんだ!
図書館を出て、足早に家へ向かう道中、何度となく引き返そうとした。
引き返したい気持ちでいっぱいだった。
そうしているうちに、記憶が一つ、蘇ってきた。
高一になってすぐのある日、俺は図書館で借りた本を返しに行こうとしていた。
ところが急にバイトが入ってしまい、困っていたところにウソップが、
「俺が行ってやるよ、勉強の息抜きになるし。」
と言って、俺の代わりに図書館へ行ってくれだんだ。
その日から…ウソップの目は『コイ』する目に変わっていた。
つまり…俺がウソップに頼まなかったら、ゾロを最初に見つけたのは俺だったかもしれない。
そう思うと、恨めしく思えてくる。
なぜ、俺じゃないんだ。
ゾロの相手は俺だったはずなのに!
携帯メールの着信音が鳴る。
「ウソップ…」
『さっきゾロからメールが来た。ありがとうな。ゾロも感謝してたよ!』
携帯を閉じると、なんだか急に虚しくなってきた。
恋愛に『たら、れば』はないって、エースが言ってたな、そういえば。
俺が先に出会ったとしても、恋に落ちるとは限らない。
それは当然のことだ。
空を仰ぎ見る。
昨日とは打って変わって、いい天気だ。
気持ちのいい空を眺めながら、
『ウソップ、すまん。』
と、ウソップに詫びた。
そして、ゾロの笑顔を思い出す。
この想いは、誰にも知られちゃいけない…俺の中にずっとしまっておかなければ。
胸の奥の方に、永遠に俺だけの秘密…。