『 a promise 8 − 動揺 − 』(ゾロ)
自己嫌悪でどうにかなりそうだった。
今日のアルバイトの時も、チョッパーの顔付きで、自分の顔付きが分かった。
「すまんな。」
帰る時、チョッパーにそう声を掛けると、
「気にしないで、ゾロセンセ! 」
笑顔のチョッパーを見て、更に落ち込んだ。
薄暗いアパートに帰って来て、しばらく何も考えられなかった。
ただ呆然とソファに座り込んで、時間だけが過ぎていった。
どれくらい経ったのか、ふと空腹に気が付いた。
こんな時でも腹は減るもんなんだな、と苦笑いした。
サンジが渡してくれた弁当を食べる。
「…うまい、な。」
何だか心に染みてきた。
さっきまで麻痺していた感情が少し蘇ってきた気がする。
一気に食べると、寝転がって、今日のことを思い返した。
まだ手に残る、ウソップを抱き締めた感触、温もり。
アイツの温度を、情けない位、体が覚えている。
あんなことしてしまった後悔と、もう一度抱き締めたいという欲求とで、
気がおかしくなりそうだ。
人を好きになるって、こういうことなんだな…。
今まで恋人がいなかった訳じゃねぇ。
だが、こんな想いをするのは初めてだった。
まさか、自分が初めて本気で惚れるのが男だとは考えもしなかった。
だが、頭で否定しようにも感情は正直にウソップを欲していた。
「はぁ…参ったな、この俺がこんな…」
こんな時、やはり一人なのは堪える。
誰かと話でもすれば気が紛れるんだろうが、生憎そんな相手はいねぇし。
サンジの顔が浮かんだが、馬鹿にされるのが落ちだと却下した。
そんな訳で、俺としては不本意だがグダグダと想い悩んだ。
今夜は勉強どころか、睡眠だって怪しそうだ。
ウソップの存在がここまで大きくなっていたとは思っていなかった。
また、大きなため息をつく。
携帯を手にして時間を見る。
「12時…か…」
長い夜になりそうだ…そう思った瞬間、
携帯の着信音。
目に飛び込んできた、発信者の名前。
「ウ、ウソップ?!」
まさか…まさか…アイツがかけてくるなんて。
動揺を抑え深呼吸をし、ボタンを押す。
「はい…」
「あ、あの…ゾロ…だよな?起きてたか?」
「あ、あぁ…」
間違いなく、ウソップの声だ。
少々混乱してきた。
なぜだ?どうしてウソップから携帯してくるんだ?
「あの…さ、今日のことなんだけど…」
「いや…あれは…あの…」
心の準備もなく、核心に触れられ、動揺が抑えきれない。
「悪かったよ、急に帰るなんて言って。」
…え?
「いや、さすがにちょっとびっくりしちまって…
ああ、嫌だったとかそんなんじゃなくてだなぁ…
ええっと、やっぱ、携帯だとうまく言えないな…」
一人で喋り続けるウソップ。
その声だけで、泣きたいくらいだった。
「ゾロ?聞いてんのか?」
「ああ、聞いてるよ…俺の方こそ、すまなかった。」
やっとのことで、普通に声が出た。
携帯の向こうでウソップが安堵したような、何か笑っているような、そんな感じがした。
「そ、それでさ、今度図書館以外で会えないかな?」
「え?」
思いもよらないウソップの言葉。
「いや、ほら、ちゃんと話したいこととか、あるから…出来れば二人で話せるとこで…」
「そ、そうだな…」
少し考えていると、
「あ!でもゾロ、バイトとか勉強とか忙しいんだよな?ごめん、考えなしだった!」
慌てるウソップ。
自然に笑みがこぼれる。
だからコイツのこと、好きになったんだよな、と改めて思う。
「いや、いいんだ、気にしないでくれ。俺もそうしたいし。」
「そか?」
嬉しそうなウソップの声に、俺も嬉しくなる。
「明日…うちに来るか?」
「え?ゾロん家か?」
言ってしまってから、ハッとする。
「あ…あんなことはしねぇぞ、絶対に、反省してるし…」
携帯の向こうでウソップが吹き出してる。
「いいよ。じゃあ明日、ゾロん家な。
俺場所分かんねぇから、図書館で待ち合わせでいいか?」
「ああ、それでいいよ。」
「おう、じゃ決まり。明日…つか今日だな、楽しみにしてるよ。」
「そうだな。」
「じゃあな、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
携帯を切る。
途端にドキドキしてきた。
ウソップがうちに来るって?
自分で言っといて何だが、俺とんでもないこと言ったんじゃねぇか?
話したいことって何だろう。
急に不安になってくる。
ウソップの話ぶりのからは、最悪の自体は想像出来なかったが、もしかしてってこともあるし…
いや、すごく好意的な声だったから、それはないだろう…
などと考え出すとやっぱり動揺してしまう。
俺ってこんな女々しい性格してたか?
ため息をつく。
今夜はやっぱり、眠れねぇだろうな。
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