a promise 5 − 依頼 − 』(ウソップ)


 

嘘みたい、だ。
俺がアイツと話をしているなんて。
半年もの間、声を掛けることさえ出来ずにいたアイツと、
こうして向き合って勉強する日が来るなんて、想像もしていなかった。

あの日、緊張してガチガチだった俺は、吹き出すゾロに急に親近感を持った。
こんな顔したりするんだ…俺は今までゾロの何を見て来たんだろう。

それから俺達はどちらからともなく、自分のことを話した。

ゾロは、剣道のこと、怪我のこと、勉強のこと、バイトのこと、お節介な二人のクラスメートのこと。
俺は、ルフィのこと、ルフィ一家のこと、それから、ゾロを見つけた日のこと。
そのうち、お互いに身内がいないことを知った。
俺はルフィのうちに下宿してるけど、ゾロは一人暮らしらしい。
寂しくないのかと尋ねると、慣れたよ、と笑った。
その笑顔は、何だか寂しそうだった。

そんな訳で、毎週水曜日は図書館で一緒に勉強するようになった。
ゾロはすごく頭がいい。
何だか難しい本を読んだり、問題を解いたりしてる。
そして時々俺を見て、
「ウソップと居ると、和むんだ。お前は癒し系だな。」
とか、ドキッとするようなことを平気で言う。
ゾロはかなり口説き慣れしてる…気がする。

ふと、何かをみつけたような表情をした。
「…なんだ、何しに来やがった。」
眉間にシワを寄せるゾロ。
その視線の方向に目を向けると…

「テメェ、俺様が作ってやった弁当忘れやがって、ふざけんなよ。」
目をみはるような…綺麗なブロンド、スラッとしたスタイル…か、カッコイイ…
「うるせぇよ、頼んだ覚えはねぇし。」
「んだと、テメェ!三枚に卸されてぇか!」
睨み合う…ゾロとブロンド。
こ、怖い…。

ブロンドが俺の方を見た。
「あ?なんだ、お前は?」
「え?えぇっとウソップといいます…友達です、ゾロの。」
ブロンドの、目が真ん丸くなった。
「友達ぃ?!コイツのか?マジかよ、冗談だろ?」
え?俺なんか変なこと言ったか?
「お前な…俺に友達がいて悪いのかよ。」
「いや…だって、お前が作りたがらなかったんだぜ?!」
「無理に作るもんじゃねぇだろが。コイツは特別だ。」
特別?!
俺が特別?!
俺とブロンドの目が真ん丸くなった。
そしてブロンドは俺をまじまじと眺めて、
「ふーん…」
と言ってから、ニヤリと笑った。

「お前、弁当届けるためにここに来たのか?」
「あ?あぁ、ナミさんが届けてやれって。」
ゾロのキツイ表情が少し変わった。
「そうか…わざわざすまなかったな、サンジ。」
サンジ?ナミ?
「なんだ、急に。気持ち悪いなぁ。」
ああ、じゃあこの人が『お節介なクラスメート』なんだ…。
「なんだ、人が素直に礼を言ってるのに。」
そう気が付くと、この二人のやり取りも、なんだか楽しそうに見えてきた。

「ウソップ。」
はい?
突然サンジに名前を呼ばれて声が出なかった。
「これはお前の影響だな。」
は?
「あのトゲだらけのゾロが急に変わった。お前、ゾロの角を取る効果かなんかあるんじゃねぇの?」
「な、なんだよ、それ。」
慌てる俺をヨソに、ゾロまで同意する。
「そうなんだ、ウソップといると気持ちが穏やかになるんだ。」
だから、そおいうセリフをサラッと言うなって。
二人の男前にそう言われて見つめられると…身の置き場がない。

「あ、ゾロ!もう時間だぞ!!」
「お、やべっ、遅れちまうっ」
ゾロが慌てて帰り支度をする。
「サンジ、弁当サンキュー。ナミにも礼言っといてくれ。」
「おう。」
そして、優しい目で俺見る。
「今日はバタバタしちまって、すまなかった。またメールするから。」
「あぁ、待ってるよ。」
ゾロはそう言うと、足早に図書館を後にした。

残された、俺とサンジ。
「ゾロがメールね…変われば変わるもんだ。」
サンジがつぶやく。
それから少し考えるような顔をして、俺に言った。
「ウソップ、ゾロを頼むな。」
「え?頼むって…」
「俺、アイツをガキの頃から知ってるけど、一人なんだ…いつも。
俺とナミさんがいなかったら、誰とも話さずに一日が終わっちまう。」
普段のゾロのことは全く知らなかったから、そんなゾロは想像出来なかった。
でも、確かに近寄りがたい雰囲気は持っていて…
だからこそ、余計に話しかけられなかったんだろう。
「あんなゾロを見たのは初めてだ。俺もナミさんも出来なかったことを、
お前なら出来るのかもしれないな。」

俺は、ゾロのおかげで変われるんじゃないかと思った。
俺は、ゾロを変えることが出来るのか?
俺は、そんな大層な人間じゃない。
俺は…ゾロのために、何か出来ることをしてやりたい。

サンジの笑顔は、穏やかで、でも寂しそうで。
自分達ではどうしてもやれなかったという想いが溢れている気がした。

なあ、ゾロ。
お前はこんなにも人から想われてるよ。
どうしたら、ゾロに伝えることが出来るだろうか。

 

 

 

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