『 a promise 3 − 変化 − 』(ウソップ)
いつもの時間に、いつもの場所で、アイツの姿を確認する。
それだけなのに、いつもドキドキする。
何度となく見たその横顔も、今日初めて見たかのような気持ちになる。
この気持ちが何なのか、計りかねていた。
相手が女なら、文句なしに恋愛感情だと言い切るが、相手は男だ。
この気持ちを恋愛感情と言い切れるほどの根性を、俺は持ち合わせちゃいねぇ。
『なんで、声掛けねぇんだ?』
ルフィの一言が胸に突き刺さったままだ。
声なんて、掛けられる訳ねぇだろ。
そもそも何て話しかけるんだよ。
それに…俺なんかに見られてるって知ったら、気持ちわりぃって思うだろうよ。
そんなの、そんなの嫌だから。
だから、こうして見てるだけでいいんだよ。
そう思いながら、そうじゃない自分も居たりして…なんか、ホント、訳分かんねぇ。
そんな風にヤキモキしている俺をヨソに、時間は確実に過ぎて、いつもの時間になってしまった。
次会えるのは一週間後かぁ…
なげぇよなぁ、一週間。
帰って行くアイツのしゃんとした後ろ姿を見てると、俺の劣等感は小さくなっていく。
お前はお前だから、やりたいようにやりゃいいんだよって言われてるような、そんな気がする。
ふと、アイツの座っていた席に目をやると、何か置いてある。
「なんだ…?ノートか?! 」
アイツのノート、だよな、多分。
『3−A ロロノア・ゾロ』
「…綺麗な字…ロロノア・ゾロっていうんだ。」
名前を知った感動もそこそこに、ふと気が付いた。
「名前が書いてあるってことは、授業用のノートじゃねぇのか?!」
どうする?どうしよう?ないと困るよな…多分。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
アイツの制服、S高のだった…だったらここからは遠いから、多分自転車だ!
そう思った瞬間、俺は走り出していた。
「まだ居てくれよ!」
そう願いながら。
「あ、いた!」
離れててもよく分かる、アイツの姿。
心臓がドキドキ鳴る。
まるで別の何が、トントンと胸の中を叩くかのように。
『なんで、声掛けねぇんだ?』
うるせぇよ!今掛けるよ!
「ま…待って!ロロノアさん!!」
アイツの動きが一瞬止まり、ゆっくりこっちを見る。
初めて合う、目と目。
明らかに驚いている表情。
あああ、やっぱりそうだよなぁ…早くノート渡してしまおう!
「あ、あの、ノート…忘れてたから…あ、名前見てしまって、ごめんなさい!」
ノートを両手で持ち、アイツに差し出す。
「あ」
受け取るアイツ。
そして俺の顔を見て、
「悪かったな、助かったよ。ありがとう。」
と…笑った。
恐らくは、耳まで真っ赤になってしまっているだろう。
そう思うと、どんな顔をしたらいいのかも、何を言ったらいいのかも、
全然分からなくなって、とにかくこの場から立ち去りたい思いでいっぱいだった。
「じゃあ、俺はこれで…」
「おい、待てよ。」
え?待てって…僕、なんかしましたか?
「お前、暇か?」
「はい?」
「暇なら、一時間、この先のファミレスで待っとけよ。俺バイト済ませたら行くから。」
なんですと?
訳が分からず、口をパクパクさせている俺を見て、クックと不敵な微笑みを浮かべている。
「いいな、待っとけよ!絶対だからな!」
そう言って自転車で走り出した『ロロノア・ゾロ』。何が起きたのか、さっぱり分からない。
だけど…全身が熱源になったんじゃねぇかと思うくらい、熱く感じた。
何が何だか分からなかったが、何かが変わろうとしている…そんな気がした。
ルフィ、俺、アイツのおかげで、変われる気がするよ。