a promise 14 − 暗闇 − 』(ウソップ)

あれから…一ヶ月ちょっと。

自分から会わない宣言して、ゾロには勉強に集中してもらおうと思って…なのに。

俺が禁断症状ってどういうことだ(汗)

毎日メールは来る。

ちゃんとやってるからとか、補習に出てるとか。

俺の方も元気だよとか、今日は何をしただとか。

 

だけど…日に日にあの日の事が俺の中で大きくなっていく。

あの日。

俺は覚悟していた。

ゾロに抱かれること。

覚悟しているつもりだった。

でも。

怖かった、震える自分に嘘をつけなかった。

ゾロは笑って無理すんなと言った。

情けねぇ、何やってんだ俺は。

だけど、ホッとしたのもまた事実だった。

ゾロの気遣いに感謝して、家路についた。

 

その夜から…触れた肌、ゾロの息遣い、唇の感触、絡められた舌、

あの時怖いと感じたすべてが…俺の心を支配し始めた。

怖かったはず、なのに。

俺の心を捕えて離さない。

あの時のゾロの目を思い出すとゾクゾクする。

『妖艶』ってああいうのを言うんだろうなと実感した。

 

ゾロに会いたい。

こんなに辛いとは思ってなくて、こんな状態があと二ヶ月も続くのかと思うと

気持ちの持って行き場がない。

 

街はすっかりクリスマス一色で、みんなどことなく楽しそうで…

それが更に俺の気持ちをブルーにさせる。

溜め息に押し潰されそうな、そんな毎日を送っていた。

 

「そんな溜め息ばっかつくくらいなら、会いたいって言やぁいいのに。」

ルフィも呆れ顔だ。

「そんな訳にいくかよ。」

俺が言い出したことなんだから。

そう言いながらも、溜め息が止まらない。

情けないことこの上無しだ。

 

そんな俺に、ルフィはあれこれ気が紛れそうなことを提案してくれた。

一緒に買い物に行ったり、ゲームをしたり。

ルフィの気遣いが嬉しい。

俺ってホント、ルフィいないと駄目駄目だよな。

 

 

そんなこんなで、あっという間に12月24日。

だけど、どこへ行くでもなく、俺とルフィは夕食の後、部屋でくつろいでいた。

「それにしても、今夜は冷えるなぁ〜」

「ん、そうだな。雪降るかもな。」

「雪かぁ、積もるといいなぁ。」

「積もったら雪だるま作ろうぜ、ウソップ!」

「そんなに積もるかよ!」

得意のツッコミが久しぶりに出て、ルフィもシシシと笑う。

 

携帯の着信音が鳴る。

この音。

ゾロだ。

しかも…

「電話だ!」

はやる気持ちを押さえて、受話ボタンを押す。

 

『よお。』

久しぶりのゾロの声。

泣きそうになる。

声が出ない。

『なんだ?感動のあまり、声も出ねぇか?』

クックと笑うゾロ。

「んな訳あるかよっ!ちょっとびっくりしただけだ!」

『そうか、そいつは残念だ。』

ハハハ、と笑うその声は、何だか楽しそうで拍子抜けだ。

俺なんかこんなに凹んでんのに。

 

『ウソップ、メリークリスマス。』

「おう、メリークリスマス!」

『今部屋にいるのか?』

「ああ、そうだけど?」

『窓の外、見てみろよ。』

「ええ?外?」

横で聞いているルフィも、なんだろう?と言う表情だ。

言われるがままに、カーテンを開けてみる。

 

「ああ!」

雪が降ってる。

しかも積もり掛けてて、屋根がうっすら白くなってる。

「すげ〜!どおりでさみーはずだよな!」

窓を開けて、空を見上げる。

暗闇から、白い雪が突然現れるような、そんな感じ。

今きっと、ゾロもこの空を見上げている。

そう思うと、少しずつ、心が満たされていく。

 

ルフィが窓から顔を出す。

「明日は雪だるまだな、ウソップ。」

小声で囁き、シシシと笑う。

俺もつられて笑った。

 

『おまえら、ホント仲良いんだな。』

「え?」

なんで?
声が聞こえたのか?
ゆっくりと、視線を落とした。

家の前の道に、人影。

まさか、まさか…。

暗闇に目が慣れてくる。

 

「…ゾロ!」

そう叫ぶと、俺は部屋を飛び出して、その人影の元へ走った。

 

家の前の道、そこに立っていたのは、間違いなくゾロで、

会いたくて会いたくて、仕方のなかったゾロで。

いろんなことが言いたいのに言葉が出ない。

 

「なんだ?感動のあまり、声が出ねぇか?」

わざとらしくゾロが言う。ニヤニヤと笑っていて、腹立たしいったらありゃしねぇ。

「そっ、そーだよ!悪いかよ!」

「へっ、そうこなくちゃあな!」

ゾロが俺を抱き寄せる。

俺もゾロに抱きつく。

「会いたかった、ウソップ。」

耳元で、ゾロが囁く。

「俺も。すげぇ会いたかった。」

溢れそうになる涙を抑えながら、俺はゾロにしがみついた。

こんなにも、こんなにも、ゾロのことが好きだよ。

どう表現していいのか分からねぇほどに、ゾロが好きだよ。
「ウソップ、顔、見せて。」

少しだけ身体を離して、ゾロが俺の顔を見る。

ゾロの左手が俺の頬に触れ、その親指が頬をなぞる。

あ。

またあの顔してる。

『妖艶』

ああ、キスされる…。

 

「あーごほん。」

ルフィの声に我に返る。

「お取り込み中何だけど、ここは天下の往来だし。

 まあ、俺は見物させてもらってもいいんだけど。」

ルフィが部屋の窓から声を掛ける。

あああっ!そうだったぁ(汗)

外、なんだよな、ここはぁ!!

「忘れてた…」

ゾロが呟く。

その言葉に、おかしくなって吹き出してしまった。

 

「なぁ、ゾロ。」

ルフィがゾロに声を掛ける。

「あ?なんだ?」

「ウソップ、さ、お持ち帰りしねぇ?」

「「はあ?!」」

「ウソップ、ほらっ!」

窓から何かが降って来た。

「俺のコート。」

もう一度、窓を見上げる。

「あ、靴は履けよ。」

「あ、そう言えば靴履いてねぇ、ってそうじゃなくてぇ! 」

ルフィがニッと笑う。

「ウソップ、溜め息全部、引き受けてもらえよ!」

「…ルフィ。」

「分かった。お持ち帰り、させてもらうぜ。」

「ゾロ?!」

ゾロの言葉に、声が裏返る。

「ウソップ、靴。」

「お前らのこだわりはそこか?!」

ゾロが意地悪そうに笑っている。

「じゃあこのまま俺が帰っちまって、平気か?」

「う゛っ…。」

平気じゃねぇ、どう考えても平気じゃねぇ。

「クリスマスだ、今日だけ、俺の側にいてくれねぇか?」

歯の浮くような台詞も、ゾロが言うと変じゃねぇ。

「ったく、しょうがねぇなぁ!」

しょうがねぇのは俺なんだけど、そう言わないと自分の背中を押すことが出来ない。

何より、俺が一番そうしたがっているんだから…。

隣で微笑むゾロも、窓からやれやれという表情で見ているルフィも、

そのことを十分に分かってくれている。

ありがとう。

大好きだ。

 

 

あ、靴はちゃんと履くからな。

 

 

 

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