『 a promise 13 − 覚悟 − 』(ゾロ)
誕生日を祝って貰うのは、ガキの時以来だ。
毎年サンジとナミが何かお祝いをと言ってくるんだが、ずっと断わってきた。
俺の中で、誕生日ってやつは「家族の象徴」だからだ。
親の記憶はほとんどない。
ただ、おぼろ気に誕生日を祝って貰った記憶だけが残っている。
だから俺にとって誕生日イコール家族なんだ。
そんな理由で、ずっと長いこと誕生日を祝ったことなんかなかった。
ウソップが言い出さなければ、これからもそうだっただろう。
「なんだよ、何で言ってくんねぇんだよ!」
エライ剣幕で怒られてしまった。
でも何故だか、誕生日を祝うんだと張り切るウソップを見ていると嬉しくなった。
俺にとって、ウソップはもう身内なのかもしれねぇな。
誕生日には、プレゼント持って俺んちに来ると言ってたウソップ。
カップを二つ用意して、コーヒーを煎れる準備をした。
早く来ねぇかな。
こんなにワクワクするなんて、思わなかった。
俺ってこんなに乙女チックだったか?
「ゾロ〜来たぞ〜」
ドアの向こうで声がする。「おぅ、今開ける。」
ドアを開けると、花束とケーキらしきものが入ってそうな箱を抱えた…
嬉しそうなウソップが立っていた。
「HappyBirthday!ゾロ!」
「お、おう。サンキュ。」
ニヤケてしまいそうな顔をなんとか保たせる。
「なんだよ、それ。俺が花束って柄か?」
「うっせ〜よ、野郎二人じゃ華やかさに欠けるだろうが!」
何を言っても機嫌よく、笑顔のウソップに、俺も嬉しくなる。
コーヒーを煎れて、ケーキをいただく。
小さめのショートケーキ。
それほど甘くなくて、コーヒーによく合う。
「だろ?!ゾロのコーヒーにはこのケーキだと思ったんだよ!」
終始笑顔のウソップ…。
あれ?
なんだろう、今少し違和感を感じた。
「これな、プレゼントなんだ。」
ゴソゴソとポケットから取り出したものは、
「ストラップ、か?」
緑色の、小さな石がいくつかついている、
シンプルだけどセンスのあるデザインのストラップだ。
「俺が作ったんだ。」
「え?ウソップがか?」
「俺、こういうの作るの好きなんだ。でも、今回時間あんまなくてさ。
凝ったのは出来なかったんだ。」
照れくさそうに笑う。
「いや、気に入ったよ。ありがとう。」
「実は何気にお揃いだ。」
ウソップが取り出した携帯に、同じデザインのストラップ。
「色は違うんだな。」
「うん。ゾロのはアベンチュリン。インド翡翠だ。俺のはラピスラズリ。」
何だか急に、穏やかに、微笑むような表情になったウソップを見て、ドキドキしてしまった。
こんな顔もするんだ…なんだかますます惚れちまったかも。
その笑顔が、ふと真顔に変わった。
「ゾロ、俺に話してないことがあるだろ?」
「え?」
「…補習、出てないんだってな。」
「!!」
何でウソップがそれを知っているんだ?
「…サンジの奴か。」
「誰だっていいだろう?なあゾロ、どうして出ないんだ?」
それは…ウソップと少しでも一緒にいたいから。
大事な補習なのはよく分かっていたんだ。
でも…。
「俺のせいだろ?」
「ち、違う!ウソップのせいじゃねぇよ!」
それはあくまでも、俺自身の問題だから…。
ウソップの手が、ソッと伸びて、俺を抱きしめた。
「俺にとって、ゾロがどんなに大事か、分かってくれるか?」
耳元で囁く。
ゾクゾクとする。
「だから、ゾロにとって大事なことは、俺にとっても大事なんだ。」
何が言いたいんだ?
「ゾロ。」ゆっくりと身体を離して、俺を見つめるウソップ。
「しばらく会うのよそう。」
「え?!な、なにを…??」
何を言っているのか分からない。
混乱して、動揺が止まらない。
「今のゾロにとって、大事なのは勉強だよ。夢に向かって最大の努力をすることだよ。」
「だけど…俺はウソップが…」
また、微笑む。
「分かってるよ、ゾロ。」
出会った頃、ウソップは俺の笑顔に吸い込まれそうだったと言っていた。
今は、俺がウソップに引き込まれる。
「だからこそ、俺はゾロの邪魔をしたくないんだ。」
ウソップの、気持ちはよく分かる。
逆の立場なら、そう言っていただろうと思う。
「しばらく会えないだけだ。過ぎちまえば、あっという間だ。」
頭では理解出来るんだが。
「反って勉強に集中できねぇかもしれねぇ。」
「俺だって、しばらく会えねぇのは辛いんだよ。」
俺の肩をつかんでいたウソップの手に、キュッと力が入る。
「だから…だから俺…」
ウソップの手が微かに震えている。
「今日は、覚悟して来たんだ。」
覚悟?
ウソップが真っ赤になっている。
さっきより、強く震えている気がする。
まさか…。
「…本気か?」
「あ、ああ、男に二言はないぜ。」
ぎこちない笑顔を見せる。
「こんなに震えててか?」
「き、緊張してんだよ。」
ウソップの耳元で囁く。
「途中で待ったは効かねぇぞ。俺、我慢してたから。」
あり得ねぇくらい真っ赤になるウソップ。
それでも、必死でうなずいている。
ソッと、ウソップを抱きしめる。
いつもの触れるだけのキスをして、ウソップを見つめると、潤んだ瞳で俺を見つめている。
もう一度、キスをする。
今度はウソップの唇を吸い上げる。
そしてウソップの舌を求めて、舌を滑り込ませる。
「ん…んふぁ…」
ウソップの口から漏れる声は、当然初めて聞く声だ。
その声は、俺を刺激するのに十分だった。
唇から、滑るように首筋にキスをする。
「ん、あ…!」
のけぞるウソップを抱きしめたまま、ソファに倒れ込む。
「ゾ、ゾロ…」
ウソップが俺にしがみついた。
その顔を見ると…
ギュッと瞑った目。
涙らしきものがうっすらと見える。
口は真一文字で、唇も震えている。
よく見ると、身体のあちこちに力が入っていて、小さく震えていた。
「…なぁ、ウソップ。」
パッとウソップが目を開く。
「ゾロ?」
「辞めよう。俺、このままウソップ抱いたら、絶対後悔する。」
身体を起こし、ウソップも起こしてやる。
「な、なんで?」
不思議そうに、でもどこか安堵したような顔のウソップ。
「無理して震えてるウソップ抱いたら、俺が辛いんだよ。」
ニッと笑って見せる。
その瞬間、ウソップの目からボロボロと涙が溢れた。
「お、おい、ウソップ?」
「う、う、ごめんゾロ。やっぱまだ、ちょっと怖かった…。」
「バーカ、無理すんな。」
ウソップの肩を抱いて、引き寄せる。
「分かってるから。お前の気持ち。」
だから泣くな、そう言って、涙を拭いてやる。
「ウソップの言う通り、しばらく会うの辞めるよ。」
ウソップが顔を上げて俺を見る。
「絶対合格するから、待っててくれ。」
フニャッとウソップが笑った。
「うん、うん。」
嬉しそうに、どこか寂しそうに、頷く。
俺はウソップの額に軽く口づけると、
「でも、たまに携帯したりメールしたりすんのはいいだろ?
じゃなきゃ禁断症状で勉強どころじゃねぇぞ。」
と言って、ウインクした。
目を真ん丸くして俺を見る。
そして、吹き出して、
「ああ、そうだな。」
やっと、声を出して笑った。
俺の為に、ウソップの為に、二人の為に、俺はがむしゃらに頑張るよ。
ウソップの想い。
絶対、無駄になんかしない。
きっと、きっと、きっと、俺達はこの試練を乗り越えられる。
なぁ、ウソップ。
そうだよな。