『 a promise 12 − 衝撃 − 』(ウソップ)
全く、ゾロのやつ、俺が聞かなかったら言わないつもりだったのかよ。
誕生日。
11月11日。
何気なく聞いたゾロの誕生日は、もう間近に迫っていた。
「誕生日を祝うなんて、ガキじゃあるめぇし。」
そう言ってゾロは笑ってたけど、やっぱり、好きな人の誕生日は祝いたい。
おめでとうって言いたい。
ありがとうって言いたい…生まれて来てくれて、ありがとうって。
ああでも、どうすっかなぁ〜。
ゾロは受験生だから、そんなに時間は取れねぇし、
俺にしたところで、そんなに予算があるわけじゃねぇし。
そんなことを考えながら、ショッピングモールをうろつく。
「もっと前に知ってたら、考えておいたのになぁ。」
ふう、とため息をついた時、
「ウソップじゃねぇか?」
名前を呼ばれて振り向く。
「あ…」
「やっぱりウソップだ、俺、覚えてるか?」
忘れるわけない、こんなカッコイイやつ。
「サンジさん!」
「サンジさんはやめてくれよ、サンジでいいぜ。」
ニッと笑う。
相変わらず男前だ…ゾロとは違う、色気のある人だなぁ。
「なぁに、サンジくん。知り合い?」
サンジの後ろから、オレンジ色の髪の…
「…綺麗な人。」
「あら、正直ね〜。」
嬉しそうにその女の人は笑った。
「あ、うわ、思わず声が…」
「うんうん、ナミさんの美しさは衝撃的だからなぁ〜。」
サンジが身をくねらす。
「で、誰なの?サンジくん。」
「あ、ウソップですよ、ナミさん。前に話しましたよね、ほらゾロの…」
ナミさん…この綺麗な人がナミって人なんだぁ…。
「ああ〜ゾロの!この鼻の長いのがそうなんだ。」
綺麗だけど…口悪そう…。
「あんた、ゾロのどこが気に入った訳?」
前言撤回。
悪そうじゃなくて、悪い。
「別に、と…友達になるのに理由なんかねぇよ。」
「ふ〜ん。」
「ナ、ナミさん?」
サンジが何聞いてんですかって顔をしてる。
この二人は恋人同士なのかなぁ?
だとしたら…いいな、二人でこうしてデート出来て。
「まあいいわ、そのうち分かるだろうから。」
何がだよ、訳分かんない人だよなぁ。
「ねぇウソップ。あんたからゾロに言って欲しいことがあるのよ。」
「え?俺からゾロに?」
なんだろう、毎日会っているんだろうに。
「補習、出なさいよって。」
「補習?」
「そうよ、特進クラスの補習。」
そうか、ゾロくらい頭いいと、授業じゃ足んねぇだろうからなぁ。
「出てないのか?」
「そうなのよ、大事な補習なのに。」
「ナミさん、その話は…」
サンジが何か言いたそうだ。
「いいのよ、サンジくん。」
ナミさんの一言で、サンジが黙る。
「何で出てないんだ?」
「それはウソップが一番知ってるんじゃないかしら?」
「俺が?」
ナミさんの表情。
サンジの表情。
二人の顔を交互に見る。
「まさか…」
「気が付いた?」
「水曜日なのか、補習。」
「ま、そういうことだ、ウソップ。」
サンジが観念したかのように呟く。
「バイトは今休んでるはずよ、家庭教師ね。」
ナミさんが俺の顔を覗き込む。
「知らなかったの?友達でしょ?」
それじゃ、ゾロは俺に会うためだけに、図書館に来ていたのか…!
知らなかった、知らなかった。
全然気がつかなかった。
ゾロが俺に嘘を…いや、嘘をついているつもりはないだろう、誕生日と同じで。
聞かれなかったから、言わなかっただけ。
ゾロ、お前にとって、俺はそんなもんなのか?
ショックのあまり、周りの音も何も聞こえなくなった。
真っ暗い部屋に放り込まれたような、そんな感覚。
気が付いたら、ヘタリ込みかけた俺をサンジが抱きかかえてくれていた。
「やだ、大丈夫?ウソップ。」
さすがのナミさんも心配そうに俺を見る。
「あのね、ウソップ、意地悪で言ってる訳じゃないのよ。
でも、ゾロにとって、ウソップも勉強もすごく大事なものだから…知ってて欲しかったの。
ウソップも知らないでいるのはイヤでしょう?」
コクン、と頷く。
ナミさんが、優しく微笑む。
「やっぱり好きなのね、ゾロのこと。」
「え?」
顔が赤くなる。
「分からない訳がないでしょ。私を誰だと思ってんのよ。」
ほんの少しだけ、意地悪そうに笑う。
「ナミさん…。」
「そうよ、ナミ。私に分からないことなんてないんだから。」
この女王様ぶり。
でも全然嫌じゃない。
不思議な人だ。
サンジもヤレヤレといった表情だ。
「ナミさん、教えてくれてありがとう。俺、ゾロに補習出ろって言うから。」
二人がホッとした表情をする。
「あんた、いいヤツね。気に入ったわ。」
ナミさんが笑う。
「今度からナミでいいわよ、特別に。」
そう言うナミは…やっぱり美人だなと思う。
口は悪いけど、優しい人だ。
別れ際、二人は携帯のアドレスを教えてくれた。
「ゾロがあんたを困らすようなことしたら、言いなさいよ。
ゾロを叱ってやるから!」
ゾロとナミの力関係を想像して、ようやく笑うことが出来た。
帰り道、結局何も買えなかったことに気付く。
でも今はそんな気になれねぇ。
ゾロは、俺に嘘をついた訳じゃねぇんだと思う。
自惚れる訳じゃねぇが、俺に会いたかった、ただそれだけだったんだと思う。
だけど…話して欲しかった、相談して欲しかった。
そう思うと、切なくて、情けなかった。
反面、どこかで嬉しいと思う自分もいた。
「ったく、しょうがねぇなぁ、ゾロは。」
不器用なゾロ。
きっと今までたくさんの誤解を受けて来ただろうゾロ。
…大切なゾロ。
アイツの為に、俺に出来ることをしよう。
それが、俺からの誕生日プレゼント。