『その背中に手は届くのか5』
「花井…好きだ。」
一度離した唇をもう一度合わせる。
今度は吸い付くような、そんなキス。
熱くて、甘くて。
田島の気持ちが唇から伝わってくる。
あのザワザワした感情は陰を潜め、高揚感が俺の心を包んでいた。
ああ。
トロけそうだ…。気がつくと、田島の手が制服のボタンに触れていた。
「!!!」
ま、さか、外そうと、し、てる??!!
頭に血が昇る。
田島。
お前、お前…。
田島がボタンを外そうとした、その瞬間。「こんの…万年発情男!!」
同時に、思いっきり田島を突き飛ばした。
出会った頃より随分と身長も伸び、ガタイもしっかりしてきた田島だけど、
それでもまだ俺の方がずっとデカイ。
腕力だって俺が上。
田島が叫ぶ。
「痛って〜!!何すんだよ!!」
「何すんだよは俺の台詞だ、この馬鹿!!」
ワナワナと身体が震える。
「た、確かに俺、お前がす、好きかもって言ったけど、けど、だけど、
ものには順序ってもんがあるだろが!!」んー?という感じの田島。
そして、ポンと手を打ち、
「なんだ照れてんだな?可愛いな〜花井!!」
なんて、だらしなく笑いながら言った。
頭をガーンと殴られたような衝撃。
こ、こいつは…(怒)「お前は…ちっとは人の気持ちも…」
怒りが爆発しそう、そう思った瞬間。
バーン!!
「「「わあああ!!」」」
部室のドアが開いた。「お…お前ら!!」
血の気が引いた。一番手前に、水谷、泉、三橋が転がっている。
後ろには栄口、巣山、西広、沖。
更に後ろには阿部が、半ば呆れた顔でこの状況を眺めていた。「よう。」
田島。
何だよ、その普通な挨拶は!!「ばっか、見つかったら駄目じゃん!」
泉。
「え〜だって三橋がドア押したんだぜ?」
水谷。
「花井、くん。ケンカ、だめ。みんな、なか、よく。」
三橋が涙目で訴える。
「いや、花井が入って、田島が入ってくの見ちゃって気になってさ。」
栄口。
「俺達は部室前で挙動不審な栄口を発見してさ。」
「うんうん。」
沖と西広。
「挙動不審言うなよ!」
栄口反撃。
「や、だってさ、熊みたいにウロウロしてたら、かなり変だぞ?」
巣山。だから、な、な、とか言いつつ、俺の表情を窺っているのが見て取れる。
「い、いつから…いたんだ。」
そこが死活問題。「あ、俺はほぼ最初から。」
栄口。
「その後は俺らだな。」
「なんかさ、田島がその顔ヤバい、とか、ね。」
「そうそう。触れたくなる、って!」
「なんか、こっちが恥ずかしくなったよ。」
巣山、水谷、泉、西広。
いやもう、俺が今一番恥ずかしいよ…。「あの、その後、は、俺と、阿部く、ん、で…」
「田島がキスするっつったな。」
三橋、阿部。はああああああ!!
マジで、もう顔上げらんないぃぃ!!
が、
「で、」
へ?
阿部の問いかけるような「で、」に思わず顔を上げてしまった。
「したのか?」はい?
「わお!阿部短刀直入!!俺も聞きたかった!!」
「水谷喜ぶな!阿部も勘弁してくれ!」
「うん、したよ。」
「田島も答えるな!!」
おおおっと歓声に近いどよめき。
やっぱりあの間はキスだったんだぁとか、田島やるなぁとか。
もうなんだか訳が分からない。こいつらは…マジ頭痛てぇ…。
俺は頭を抱えこんでしまった。