『その背中に手は届くのか6』



ふと、気が付いた。
こいつら、変だと思わないのか。
田島と俺だぞ?
男同士だぞ?
なんでこんなにすんなり受け入れてんだ?

俺の疑問に気付いたのか、巣山が寄ってきた。
「俺達さ、結構前から知ってたんだよ。」
「え?」
何を、だ?
「田島が花井を、花井が田島を、好き、だって。」
「ええ?!」
沖と西広も気が付いて答える。
「花井も田島も、分かりやす過ぎ(笑)」
「気付いてなかったのは、当事者と、三橋くらいじゃないかな。」
三橋は目をパチクリ。
向こうから泉が篠岡だって知ってるぞ、と言った。
「し、篠岡まで…。」
多分、モモカンもな、と阿部が駄目押しをした。

なんだ、なんなんだ。
身体から力が抜けて、ヘタッと座り込んでしまった。
俺は、あのザワザワが何だか分からなくて、散々悩んだのに。
なんで気が付かれてんだよ。

田島が心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫か?気分、悪い?」
「あ…いや、あんまりにも色々分かりすぎて…いっぱいいっぱい。」

水谷がニカッと笑う。
「良かったじゃん、花井!」
また何を言うんだか。
みんなの視線が…集まった。
「だって、両想いじゃん?普通なかなかなれないよ?」
お、まとも?
と言う顔をみながした瞬間、
「それに男同士だろ?こんな漫画みたいな展開に出くわすなんてスゲ…痛てぇ!」
阿部の制裁が下された。
水谷が作り出した、ただならぬ雰囲気の中、栄口が言った。
「みんな、二人のこと心配してたんだよ。」

一人、一人の顔を見る。
優しい、仲間達の顔。
振り向いて田島の顔をみたら、満足気に笑い、そして愛しい者を見る目で俺を見ていた。
ああ、なんだ。
部活終わって、距離が出来て。
つまんないもんだと思ってたけど、こいつらと距離を置いてたのは俺だったんだ。


その時。


「コラーそこで何しとるかー!!」


「やべ!先生だ!」
「おい、いくぞ!」
「田島んちまでダーッシュ!!」
「うお!俺んち?!」
「とりあえずだよっ!勉強会を装え!!」
「つか、しようぜ!久しぶりに!!」
「おお、じゃあ勉強の後で田島と花井の婚約パーティしようぜ!」
「だ、誰が婚約だ!!」
「いーじゃん!照れるなって、花井!!」
「だー!!くっつくなぁ!!」

走りながら、みんながはやしたてる。
からかってるようにも聞こえるけど、それがこいつらの優しさだとよく分かっていた。
なんだよ、なんだよ!
なんか急に腹が立ってきたぞ!!


「あーーー!!ちっきしょーーー!!」

おお?
なんだ?
みんなが振り向く。

「お前ら!!愛してるぞーーー!!!」

おおおお?!
と全員がどよめき、阿部だけが露骨に嫌そうな顔をして、他の奴らは、
「俺もだぞ、花井!」
「すっげー!初めて告られた!」
「花井大胆だなぁ!」
などと笑い合った。

一人、
「花井が愛していいのは俺だけなのー!!」
と納得がいかないヤツもいたけど。
全く。
なんでコイツが好きなんだ。
ふくれっつらの田島を横目で見て、なんだか可愛いと思った。
ああ、やっぱり、好きだなぁと思う。
「しょうがねぇなぁ。」
と、手を繋いだらびっくりした顔をして、すぐにニコッと笑い、
満足そうに俺を引っ張って走り出した。

すぐ前に見える田島の背中は、やっぱり俺には届かないだろうけど、
田島はちゃんと振り返ってくれる。
待ってはくれないけど、ついて来いよと俺を促す。

あの頃のように、ワクワクした。
あの頃のように、ときめいた。
あの夏の歓声が、耳元でした気がした。

 




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