『想うということ2』



気が重かった。
朝練も行きたくなかったし、そもそも学校へも行きたくなかった。


花井への誕生日おめでとうメール。
田島の発案で野球部員全員、誕生日にはおめでとうメールをすることになって。
その日になったらすぐ、がお約束だった。
4月28日。
携帯を握り締めて、しばらく送信ボタンを押せないでいた。
なんて送ろう、なんて言おう。
そんなことを考えているうちに、俺の中は花井でいっぱいになって、好きという想いでいっぱいになって。


花井にバレたらまずい。
花井に気が付いて欲しい。

そんな矛盾した想いで、俺は一人ジタバタともがいていた。


こんなの、いつまでも続けるのか。
いい加減、終わりにしてしまいたい。
気が付いたら、送信ボタンを押していた。
俺の想いが書かれたメール。


花井にバレたらまずい。
花井に気が付いて欲しい。


俺はいったいどうしたいんだろう。
俺はいったいどうなりたいんだろう。
花井は最後の言葉に気が付いただろうか。
それとも、たった一行の俺らしいメールに笑ってるだろうか。
どっちでも、俺は嫌な思いをするんだろうな。
やっぱり有り得ねぇ。
俺、有り得ねぇ。


だから、学校に行きたくない。
今は花井に会いたくない。


◇  ◇  ◇


阿部はどうしたいんだろう。
いや、それ以前に、自分の感情を否定したいとは思わないのだろうか。
俺は、
否定している。
こんな自分に嫌悪さえ覚える。
でも、
消せない想い。
否定すればするほど、想いが強くなってる気さえする。


キャプテンの俺が朝練をサボる訳にはいかないし、
それは副キャプテンの阿部も同じだろう。
でも。


―――どんな顔すりゃいいんだよ。


気がつかないフリか?
いつも通りに接すりゃいいのか?
そんなことが、この俺に出来るとは思えない。
ただでさえ、思ってることが顔に出やすいタイプだし、
今までだって、阿部への想いを隠すのに必死だったのに。


じゃあ…
俺もって言うのか?


首をブンブンと横に振った。
だけど、心は反応していた。
そう望む自分が歓喜する。
ドキドキして、胸が痛かった。


「はぁ…」


俺はどうしたいんだ?
阿部とどうなりたいんだ?
いつだって答えの出ない自分への問いかけ。


また、着信音。
ディスプレイには…
『阿部隆也』


心臓が止まるかと思うほどの衝撃。
あ、阿部?!
なんだよ、なんだよ。
しかも、メールじゃねぇぞ?!


携帯を持つ手が震えた。
深呼吸して、
震える指で受話ボタンを押した。


「…もしもし」
『あ…俺、阿部だけど。』
「ああ…うん。」


阿部が次の言葉を言うまで、
俺は胸をギュッと押さえ、
阿部が何を言おうとして携帯して来たのかを
必死で考えていた。










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