『想うということ』



夢を見た。
想い人の夢。
大きく息を吐いて、また布団を被り直した。
もう少し寝よう、朝練までまだ時間がある。

「花井…」

(…好きだ)

いつも口には出来ない言葉。
誰も聞いてなくても、独り言でも、口にしてしまうと想いが溢れ出しそうで。

「花井…」

名前を口にするだけで、こんなにも熱くなる。
それから、何で何でと自問自答する。

「ちっくしょ…なんで…」


『おー阿部、うぃーす!』


屈託のない笑顔で今朝もアイツは俺を見るんだろう。

 

朝練までの時間。
きっともう眠ることなんか出来ない。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇

 


そんな目で見られたら、気がつかない訳ないだろ。
クラスメイトとも、チームメイトとも取れない、
友人とかそんなのとも違う、
強い強い想い。


意識しないように、俺の気のせいだと言い聞かせ、
普通に普通に振る舞う。


『おー阿部、うぃーす!』

これだって、俺にとっては一生懸命な『普通』。
この先、どうしたらいいのかなんて分かんねぇし、
正直、想像も出来ない。

 

 

4月28日。
なった途端に携帯が鳴る。
何回も、何回も。
野球部のやつらからの『おめでとうメール』だ。
去年はなんだかんだで巣山と俺はスルーだったから、
今年はみんな祝おうと田島が言い出したこと。
その日になったらすぐにメールする。
何だよそれって思ってたけど、実際貰う方になると
嬉しいもんだな。


一つ一つ順番に確認していく。
みんな個性が出てるメールで、
三橋なんてメールまでキョドってる(笑)
田島はおめでとーを連発してたりして、なかなか面白い。


「あれ…?」


一通足りない。
阿部から来てない。
今日も練習きつかったし、阿部のことだから
寝てしまっているのかも。
携帯のディスプレイを眺めて、フウッとため息をついた、その時。


「あ…」


メールの着信。
『阿部隆也』


ドキドキした。
すごくすごく。


深呼吸して、メールを開く。


『誕生日、おめでとう。』

たった一行のメール。
阿部らしい。
必要なことだけのメール。
ホントに阿部らしい、けど、もうちょっとなんとかなんねぇのかよ。
苦笑いして閉じようとして…
下に向かってスクロール出来ることに気がつく。
このメール、一行だけじゃない。


ずっとずっと。
画面の下へ。


そして、目に入った言葉に、心臓が痛いほど反応した。

 

『好きだ。』


見なければ良かったと思う。
気がつかなければ良かったと思う。
何も知らずにいたかったと思う。
お前だってそうだろう?
見られたくない想いで、
でも伝えたくてしょうがなくて。


「阿部…」


気づいてたか?阿部。

 


俺だって、同じ想いなんだから。





●初アベハナ。ようするに阿部も好きなんだなと気が付いた。



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