『想うということ3』
そんなはずじゃなかった。
だけど、
そんなつもりだった。
終わりにしたい、こんなことは。
もっと、野球に集中したい。
どうしたらいい?
否定はし尽した。
こんな想いは消してしまいたかった。
ちゃんと、
チームメイトとして、クラスメイトとして、友人として、
花井を見たかった。
そのために。
気が付いたら花井に携帯をしていた。
何を言えばいいのか、何を伝えたらいいのか、
全く考えていなかった。
ただ、
終わりにしたい、
それだけだった。
『…もしもし』
「あ…俺、阿部だけど。」
『ああ…うん。』
メール、見たんだな…直感でそう思った。
花井は隠し事があまり上手くはない。
気付いてしまった、知ってしまった。
俺の気持ちに。
もう、引き返すことなんか出来ない。
伝えるべきを伝えるだけ。
そして、
花井に否定されればいい。
それで終われる。
「明日…。」
『明日?』
「ああ、もう今日だな。朝練の前に話があんだけど。」
『な…なんだよ。』
「そん時に言う。」
『ふうん…。』
ちゃんと顔を見て言いたかった。
否定すべき想いだが、
忘れたいとは思わない。
フラレるその瞬間まで、記憶しておきたい。
花井。
それくらいお前が好きだから。
「30分くらい早く出て来れるか?」
『…うん、分かった。』
「じゃあ、部室でな。」
『ああ。』
「あ、そうだ。」
『なんだ?』
「おめでとう。」
『へ?』
「誕生日。」
『ああ…サンキュ。』
携帯の向こうで花井が笑った気がした。
◇
◇
◇
心臓が飛び出すんじゃないかと思うほどに、
動揺してる俺をヨソに、阿部は淡々と話した。
『明日…。』
「明日?」
『ああ、もう今日だな。朝練の前に話があんだけど。』
「な…なんだよ。」
心臓の音が、阿部に聞こえてしまう…。
『そん時に言う。』
「ふうん…。」
そう答えるのが俺の精一杯だった。
『30分くらい早く出て来れるか?』
「…うん、分かった。」
『じゃあ、部室でな。』
「ああ。」
何で今話さないんだろう。
何を言うつもりなんだろう。
何だったとしても、あと数時間後には分かるんだけど…
睡眠時間が確保出来なくなったのは確実だ。
携帯を持つ手が汗ばんで、この沈黙が辛かった。
阿部に気付かれないように小さくため息をして
おやすみ、と言いかけた、その時。
『あ、そうだ。』
ドキンッ。
「なんだ?」
『おめでとう。』
「へ?」
『誕生日。』
「ああ…サンキュ。」
ズルいな、阿部はズルい。
俺の心を鷲掴みにする。
俺どうしたらいいんだよ。
ドキドキが止まんねぇよ。
でも、
嬉しい。
勝手に顔がほころぶ。
『おやすみ。』
「おやすみ。」
携帯を切って、布団に潜り込んでもドキドキは治まらない。
阿部の声がいつまでも耳から離れなかった。
朝が来たら、
阿部が言いたいことが分かる。
朝が来たら、
俺の想いに決着がつくのかもしれない。
それは、
もしかして、棘の道かもしれないけれど。
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