「 君がいないと2 」
「お邪魔しまーす。」
二日ほど休んだ田島の様子を見に栄口と田島の家に来た。
もちろん見舞いになんだけど、花井のことを話したかったし、何より田島がいねぇと西浦の戦力はがた落ちだ。
田島に憧れて入部してる奴もいる。
その辺きっちり話して締めて行こうぜと言っておきたかった。
おばさんは、
「今は熱下がってるんだけど、部屋から出たがらないのよ。」
と言った。
「やっぱり、花井君のことがショックだったのかしらねぇ。」
気の毒だと言う思いと、困ったなと言う思いが入り混じったような表情。
俺達は顔を見合わせて、曖昧な笑い方をした。
「悠一郎!阿部君と栄口君が来てくれたわよ!」
ドアの向こうからなにやらモゴモゴ聞こえた。
田島らしくない。
そんな弱々しい声だった。
おばさんがドアを開けると、田島は頭から布団をかぶり、丸くなっていた。
「もうっ!しっかりしなさい!あんたがそうしてたら花井君が目を覚ますの?!」
声を掛けるが早いか、おばさんは布団をものすごい勢いで剥ぎ取った。
慌てて田島が起き上がる。
「阿部…栄口…」
俺達の顔を見ると何だかホッとしたような顔をした。
力なく笑って、すまん、と頭を下げる田島。
俺は、仕方ねぇよ、と言ってから田島の頭を叩く。
「でも学校に来い。お前がいないと、俺達(西浦)は始まんねぇだろ。」
表情が凍り付く。
少し間を置いて、田島は笑った。
「悪りぃ。そうだった。」
ぎこちない笑顔にらしくないと感じたが、栄口も俺も、きっと同じような笑い方なんだろうなと思った。
「明日は行く。心配かけてすまなかった。」
「合宿はどうする?」
「行くよ、もちろん。」
今度はしっかりと笑う。
栄口もホッとしたように笑った。
俺もホッとした。
花井がいない間、野球へのテンションを下げる訳にはいかない。
そんなのきっと、アイツは望んじゃいないだろうから。
合宿は、連休の関係で今年は三日間で行われた。
そう、去年はバスの中で花井と話して…
ああ、思えば俺ひでぇこと言ってるよな。
苦笑いする花井を思い出す。
俺はぐだぐだな三橋に一杯一杯だったけど、視界の端々に入る花井はいつも苦笑いしてた気がする。
花井の視線の先は、いつも田島だった。
多分感じたことがないだろう劣等感。
あの時の俺は、田島にライバル意識を燃やせば花井もかなりの選手になるなと思っていた。
そんで三星との試合の後、
「これで三橋はうちのホントのエースになるんだな。」
そう言って穏やかに俺を見る瞳に釘付けになった。
その時思った。
花井は俺の気持ちをよく理解してくれるなって。
三橋が欲しい、うちのエースにって言った時も、戸惑いながら一番に賛同してくれた。
何だかんだ、俺が三橋に掛かりっきりでも俺を含めてよく面倒を見てくれた。
上背のある、野球経験者。
それくらいにしか思っていなかった花井は、部内の誰より近い存在だと感じるのにそう時間はかからなかった。
その花井は、
今ここにいない。
喪失感。
それから罪悪感。
それらが俺の心を支配していた。
「田島、気合い入ってるよな。」
誰かがそう言ったのが聞こえて思考を現実に戻す。
フリーバッティングをしている田島が目に入った。
一球一球を確かめるように、物凄く集中しているのが分かった。
そう珍しい事ではない。
元々田島の集中力は野球のためだけに使われていると言っても過言じゃない。
ただ、珍しいと思ったのは、その丁寧さだ。
田島みたいに天性のセンスで野球してるヤツは…なんて言うか、ある意味、雑、なんだと俺は思う。
決してプレイが雑と言う訳じゃなく、理論や理屈で野球をしてないから、自分の感覚だけで野球をする。
だから雑に見える、あくまでも客観的にだ。
凡人の俺達には理解出来ないし、真似出来ない。
田島も俺達に説明は出来ない。
だからどうしてもその辺を理解してもらおうとはしないんだ。
理解したいなら、ここまで来い、的な発想で。
今日の田島には、その空気を感じることが出来ない。
一球打つたびにグリップを確認して何度か素振りして。
丁寧で気合いが入っていると言えばそうだが…
今まで花井がいていい刺激になっていたのに、その存在がない田島は不安になってるんじゃないか…
何度も素振りをする田島を見ながら、そう思った。
だけど、それはそうじゃなかった。
◇ 久しぶりの更新。で、これ確か花井誕SSだった・・・・・はず(滝汗
言い訳できねぇ・・・・でもまだ続いちゃったりする、ドツボにハマっておりますw
2011.10.22
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