「 君がいないと 」
花井の誕生日に、約束をした。
やっと、ようやく。
俺、変じゃなかったよな?
普通に誘えたよな?
帰りにちょっと、買い物に付き合って欲しいって。
何日も、いや、何ヶ月も前から計画立てて実現したんだ。
ちょっとガッツポーズしちまうのは、まあしょうがねぇよな。
(もちろん見えないようにな)
西浦硬式野球部二年目の春。
たった一年の間に、俺は色んなことを知った。
三橋のこと。
捕手のこと。
怪我した選手の気持ち。
…榛名の気持ち。
それから、
ちゃんと自分を分かってくれる存在が、いかに大事か。
花井。
気が付けば、一番の理解者だった花井。
いつの頃からか、俺は花井の特別になりたいと感じるようになった。
よく分かんねぇけど、三橋とは違う、何かしら特別な何かに。
「阿部、先に行っててくれ。俺部誌出してから行くよ。」
「待っててもいいけど。」
「や、いいよ。すぐ追い付くし。」
笑顔の花井になるべくぶっきらぼうに「おう」と答えて自転車を走らせた。
いつもならガンガン漕ぐペダルも今日はゆっくり。
早く花井来ねぇかな、にやけた顔を隠すように片手で覆った、その時。
背後でもの凄い音がした。
そっからの記憶は、あんまり定かじゃねぇ。
「で、どうなんだよ、花井は。」
「怪我とかは大したことねぇらしいんだけど、意識が戻らねぇって…今は面会謝絶。」
「マジかよ。なぁ、大丈夫なんだろ?」
「んなこと…分かんねぇ。」
花井は車に撥ねられた。
一旦停止を無視して飛び出してきた車に撥ねられ、意識不明の重体だ。
あの時、大きな音がして振り向いて。
倒れているのが花井だと認識して……
次の瞬間、ももかんに名前を呼ばれた。
俺は病院の待合室にいた。
記憶が飛んでいた。
合宿をどうするか、ももかんとシガポも悩んだようだけど、新入部員も入って来てるし、こんな時だからやろうよとシガポが俺の肩を叩いた。
「毎日病院へ行って、ちゃんと花井くんの様子聞いて来るから。」それで俺達は一応納得した。
こんな。
こんなことになるなら、誘わなければ良かった。
一緒に学校を出ていれば花井は急いで自転車を走らせることもなかった。
俺が───────
俺が花井をあんな目に遭わせたんだ…。
「阿部。」
「…栄口。」
声を掛けられて振り向くと、微妙な笑顔の栄口がいた。
「あのね、昨日は俺が部誌を持っていく当番だったんだ。でも帰りが遅くなっちゃって。そしたら花井が替わってくれるって…」
栄口の笑顔が徐々に歪んで行く。
「俺が…俺が自分で持って行ってたら花井は…」
「止めろ、栄口。」
大きく目を見開いて、涙を一杯に溜めて栄口は俺を見た。
「…栄口。止めよう、そういうのは。俺も止めるから。」
きっと、俺も歪んだ表情をしている。
止めることなんて出来ないだろう。
それでも、そう言わずにはいられなかった。
「合宿。花井いないんだから、俺達でやんないとな。」
「う、うん。そうだね。」
栄口は涙を拭って頷いた。
放課後の練習は、急遽ミーティングになった。
花井のこと。
合宿のこと。
色々報告しておく必要があったから。
「あれ?田島は?」
「田島は今日休み。熱出たらしいぜ。」
「…そうか。」
田島にとって花井は最大のライバルだから、きっとものすごくショックだったに違いない。
昨日のうちに花井のことはメールで回ってたから。
いくら精神的に強い田島でも、今回のことは堪えたか…。
「田島には改めて後日報告する。じゃあミーティング始めるぞ。」
出来るだけ淡々と報告していった。
鼻をすするような音が所々で聞こえた。
新入部員にとっても、花井の事故はショックだったようだ。
「キャプテンいねぇの、言い訳にすんなよ。花井がいなくても今まで通り練習はする。」
一番ショックなのは─────
「アイツ帰って来たとき、驚かしてやろう!」
「おう!!」
「は、はい!!」
きっと、俺だ。
◇ 2011花井誕SSでーす!
あれ?祝う気あんのかあんたww
や、祝う気は満々ですよーーーーー!!でもなんでこうなった??
そして続いてしまうという落とし穴(おいおい)
2011.04.24
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