「 気付いて欲しい8 」



高い。
高過ぎるだろう、そのテンションは、花井。


外泊許可を貰って戻ってきた花井は明らかに変だった。
テンションはかなり高い。
時々声が裏返ってる。
そして、あんなに喜んでた今日の試合の話をしない。
野球の話題にも触れない。
どう言ったらいいのか分かんねぇけど、何かに引っ掛かってんだろうな。
何かに…まあ、粗方想像はついてんだけど。
何だかんだ無理してんのバレバレっつうか…お前ってホント分かりやすいのな。


まだ未成年だから店でアルコールを飲む訳には行かないってことで、手っ取り早くファミレスで食うことにした。
そんで、コンビニで何か買って、俺んちで飲もうって話になった。
移動中、ずっとテンション高めに話してた花井は、ファミレスに着いた頃にはちょっと疲れているように見えた。


「お前、何そんな喋りまくってんだよ。」
「へ?あ…久し振りで、何か嬉しくてさ。」
えへへと笑う花井。
トレードマークの坊主頭にニット帽を照れ臭そうに撫でる。
その頭を指でコツンと弾く。
「嘘つけ。何かお前、変なことに引っ掛かってんだろ。」
反論するだろうと思ってた花井が、ピタッと止まってしまった。
あれ?と思っていたら、その弾いた頭をゆっくりと撫でた。


「うん…ちょっと、変だな、俺。」
珍しく素直に認めた。
いつもだったらものすごい勢いで一度は否定するのに。
(バレバレな否定だけど)
それでも何か言いにくそうな花井に、ちょっとイライラする。
「…だから、何なんだよ。」
はっきり言えよ、全く。
花井に秘め事のある自分のことを棚に上げておいて何だが、
残念なことに俺は大変気が短い。
「はっきり言えって。榛名がどうしたんだ。」
「うっ…」
花井の表情が強張る。
ビンゴだ。
やっぱ元希さんに引っ掛かってんだな。
でも何で元希さん?
つか、そもそも引っ掛かる意味が分からねぇ。
…俺じゃあるまいし。


「もっかい言うけど、榛名とは全然連絡なんてしてねぇぞ?用なんかねぇし。そもそも連絡先も知らねぇし。」
「…何で…呼び方変わってんだよ。」
「そりゃお前が気にしてるっぽいからだろが。」
「お前さぁ、何でそこだけ気が付くんだよ。」
「はぁ?だから、訳分かんねぇっつってんだろ。」


…あれ?
何だこれ、まるでなんつうかその…痴話喧嘩のような。
はたと気が付いて花井の顔を見ると、少し拗ねたような顔をしていて。
ええっと、待ってくれよ。
何かこれって、
ちょっともしかして、
俺と同じ?
とか?!
いやいや、んな訳あるか。
こんなんそうそうあって堪るか。
つか、普通ねぇし。
んじゃなんで花井は拗ねてんだよ?
やっぱ訳分かんねぇって!
何をどう話したらいいのか分からなくなってしまって、しばらく嫌な沈黙が続いた。


「あ〜!!」
突然花井が頭を抱えて言うから驚いて身構えた。
「なんだよっ!?」
「ごめん、俺なんかうぜぇ!」
「はぁ?」
「…すいません。ちょっとやきもち、妬いてました。」
「やきもち??」
俺が内心慌てふためいているのを知ってか知らずか、花井は拗ねた表情のまま話し始めた。
「馬鹿だよな〜なんかさ、勝手に俺は阿部の一番の友達って思っててさ。俺は阿部の全部知ってるって。」
花井は笑ったけど、相変わらず良く分かる作り笑いで。
「榛名さんの名前聞いた時、俺の知らねぇ阿部を知ってるんだなぁって思っちまって。
 当たり前だよな、いくら友達っつっても、全部知ってる訳ねぇって。あ〜俺ウザいこと言ってんよなぁ。」
花井は頭を帽子の上からガシガシとした。
やきもち妬いてました、か。
そうだったんだ。
お前、そんなこと…


「馬鹿か、お前は。」
「そんなはっきり言うなよ。」
嬉しかった。
素直に嬉しかった。
自分を一番と思ってくれているのが心底嬉しかった。


嬉しくて、
切なかった。


花井の気持ちは、友達のそれだと分かるから。
思い知らされたから、友達だと。
当たり前なのに、
そうあるべきと分かっているのに、
そうなんだと突き付けられて、
何で俺はこんなに傷付いてんだろう。


「マジうっぜぇ。有り得ねぇ。」
「だからっ…分かってるって。とどめを刺すなよなぁ。」
大体阿部がさぁ、と今まで会わなかった分の愚痴を話し始めて、
次第に表情が明るくなってきたのを見たら少しだけホッとした。


馬鹿は俺だよな。
有り得ねぇ期待して、ちょっとどぎまぎして。
なんつうか、かなり重症かもな。
おめでたい発想に呆れつつ、それでも笑顔の花井を見られるのは友達の立場だから。
そう、友達だから──────。


花井にバレないように、小さな溜め息をする。
今夜、俺眠れるんだろうか。


店員が運んできた料理を、花井はうまそうっ!って口にし、笑顔でうまいなって言った。
ああそうだな、と答えたけど、俺には味なんて全然分からなかった。






◇ 自分のことに鈍い・・・阿部クオリティなんだそうだw



2010.07.27


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