「 気付いて欲しい10 」


どうするか随分と悩んだけど、結局忘年会に参加することにした。
またドタキャンとかすると栄口がうるさそうだったし、今更花井を避けてどうにかなるもんじゃないと思ったから。

きっと花井は俺に会いたくない、顔も見たくない。
親友だと信じてたのに、裏切られた…そう思ってるに違いない。
だけど俺は冗談でも洒落でもなく、花井が好きだから。
あんな形で想いが伝わってしまった事は後悔してるけど、
気持ちまで消してしまいたいとは思えなかった。


「うっわ、阿部久し振りだね〜!」
「阿部?!本物?!」
「なんだよ、人を希少動物みたいに。」
「だってホント久し振りじゃん。なぁ、花井。」
「え…あぁ…っと…」
「花井とはこないだ会ったんだよ。だから久し振りじゃねぇの。」
「なんだそーだったの?」
「今回は豪華メンバーだよな、田島も来てるし。」
「フルメンバーは初じゃね?」


今回は田島も参加しているので、個室での食事会がセッティングされていた。
(さすがにおおっぴらに飲み会は色々マズい。田島は特に。)
田島のプロでの話に大きく盛り上がる。
浮かない顔の花井を除いて。
やっぱまだこだわってんのな、田島のこと。
当の田島は花井が野球をしていることが嬉しいらしく、何度も何度もその話をする。
花井はちょっと困った顔をして、でも悪い気はしない様子だった。


そしてその花井はやっぱり俺に話し掛けない。
だけど俺からは何度か話し掛けた。
全く話さないでいると気が付きそうなヤツが一人いるし(苦笑)
だから花井、顔見て話せよ。
……絶対無理って声が聞こえてきそうだな。


誰かが二次会行こう、カラオケ行こうって言い出して、
一次会はお開きになった。
カラオケとか苦手だし花井はあんな感じだし、帰ろうかなと思っていたら栄口が横に立った。
「阿部、久し振りなんだし、付き合ってよね。」
ニッコリ。
…わあ、このニッコリ、なんか怖えぇ。
こりゃ気が付いてるな、さすが栄口。
やっぱ侮れない。


皆で歩いてカラオケボックスに向かう。
栄口がちょいちょいと腕を引っ張ったので、皆から少し離れて歩いた。
肩を並べて黙って歩いて、しばらくしてから、なあ、と栄口が口を開いた。
「花井と何かあったよね?絶対。」
「あ?何がだよ。何もねぇって。」
「阿部、知らばっくれてもダメだよ。」
軽く睨むような目付きで俺を見る栄口。
ああ、お前にはホント適わない。
俺は小さく溜め息をついた。
「栄口に隠し事は出来ねぇな。あぁ…でも…謝ってどうこうって話でもねぇし。」
仕方ないんだ。
どうあがいたところで、もう元には戻れない。
「何があったの?」
「……。」
「言えない話なんだ。」
「…すまん。」
いいよ、それはと栄口は笑った。
栄口は、はぁって手に息を吐いて、寒いね、と言った。
ああ寒いな、と答えて俺も同じ行動をする。


またしばらく黙って歩いていたけど、
「俺はさ、」
と栄口が話し始めた。
「阿部の味方だよ。」
「へ?」
「そんで、花井の味方。」
「はぁ?なんだそりゃ。」
クスクス笑う栄口につられて笑う。
「おまえらが…そんな風でもさ、阿部も花井も、俺は好きってこと。」
「好きって…」
やっぱ言われるのって微妙。
俺が花井を好きなのと、違う好きってことはよく分かってるけど。
眉間にシワ寄せないでよ、とまた栄口は笑う。
「阿部には阿部の、花井には花井の思いとか言い分とかあるじゃん。そう言うのって大事だし、いいと思うんだよね。」
栄口らしくない、ニヤリとした笑みを浮かべて更に喋る。
「まあ大抵なら阿部が悪いんだろって思ってはいるけど。」
「ああ?んだよ、俺の味方じゃなかったのかよ。」
「あ〜微妙に花井寄り。」
そしてニッコリ微笑むから(明らかに作り笑顔で)
思わず吹き出して笑いだす。
前を歩いてた皆が振り返り、なんだどうしたって言い出すくらい、俺達は大笑いしていた。
あの日から、初めてちゃんと笑った気がする。
良かった、今日来て。
栄口と話せて。


「何でもねぇよ。」
と皆に言って、ほら行けよと促す。
後で何あったか教えてよー?と不服そうな水谷にうるせぇと答え、集団はまた歩き出す。
俺は栄口の肩に手をやった。
「…サンキュ、栄口。」
「どういたしまして。」
お前ってホント、不思議なヤツだよな。


不意に前を遮られて顔を上げる。
「…花井…」
前に立っていたのは花井だった。
グラウンドでジャージと話してる時も不機嫌そうではあったけど、
今はそれ以上に機嫌が悪そうだ。
んな顔、見たことねぇかも。
「…何?」
自分なりに精一杯普通に話す。
花井の眉間に少しシワが入った。
栄口が気を利かせて前の集団に向かおうとした時、花井が言った。


「今日、阿部んち泊めてよ。」
「…は?」
「いいよな、頼んだぞ。」
「って、おい花井待てよ。」


言うだけ言うと、花井は前の集団に向かって走っていった。
茫然と立ち尽くしていると、栄口が取り敢えず歩こう、と促してくれた。
何だよあれ、花井何のつもりだ?
あんなに冷たい顔して、そんなつもりねぇって言ったじゃねぇか。
今日だって、避けまくってたじゃねぇか。


「花井、仲直りしたいって顔じゃなかったね。」
栄口の言葉にああ、と頷く。
「だけど、ちゃんと話してみたら?せっかくの機会だし。」
「話すっつったって…」
話し合いの余地なんてゼロだろうがよ?
「何にもしないよりは、ずっといいんじゃない?あの花井から行動して来たんだからさ。」


そうだ、あの花井だ。
自分の考えはなかなか言わない、行動しない。
野球のことならあんなに行動出来たのに、だ。
「そう、だな。話してみるよ。」
「うん。それがいいよ。」
栄口が俺の背中をポンポンとした。
俺は何だか照れ臭くて、ヘヘッと笑った。


その様子を、花井がジッと見ていたなんて、俺は全然気が付かなかった。







◇ そして、動き始める。



2010.09.01


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