『好きなんて言えない6』


 

あれから。
もうすぐ一年が経とうとしている。
俺は俺なりにゾロを探した。
手掛かりらしい手掛かりもなく、バイト仲間に聞いたりするのが精一杯だったけど。
一年と言う時間は短いのか長いのか俺には分からない。
ただゾロへの気持ちは変わらなくて、むしろ募る一方だった。
時々ゾロと一緒に歩いた道を歩いた。
公園でベンチに座って。
本当にそれだけ。
でもそうしないとゾロとの繋がりが全部なくなってしまいそうで怖かったから。
もう、無いに等しいことを認めたくなかったから。
もしゾロが同じ想いなら、きっと会える。
そう思いたかった。
ナミに言わせると大馬鹿なんだそうだけど(苦笑)。



アパートは引っ越した。
半年くらいは、もしかしてゾロが来るかもしんねぇとか思ってて、
とにかくあのアパートには、ゾロの記憶が色濃く残り過ぎていた。

『好きだ』

耳元で囁かれた、ゾロの想い。
なぜあの時、ゾロの気持ちを受け入れなかったのだろう。
後悔ばかりで眠れなくて。
ナミに半ば強制的に引っ越しさせられた。
今はそれで良かったんだと思ってる。
いつまでも引きずってる訳にはいかねぇから。
季節が変わるみたいに、人の気持ちだって変わる。
ゾロにとっての俺はきっと過ぎていった一人だろう。
吹っ切る為に、何かの切っ掛けが欲しいと思ってた。



だから──────
ゾロと歩いた道を歩くのを止めようと思う。
散々悩んで悩んで、
まだゾロが好きなことを認めつつもゾロの残像に追い縋るのは止めようと決めた。
バイトも辞めて、俺自身気持ちを切り替えたい。
「それで…いいの?」
「おお、決めた。」
「そう…なんかウソップ、変わったわね。」
優しいナミ。
キツいとこあるけど、いつだって俺を支えてくれた。
「そか?惚れんなよ?」
「バカね、私は美形好み。」
「ハハハ!だったな!」
ホントにありがとう、ナミ。



迎えた誕生日。
一人。
それでも俺は今までみたいに泣いたりしなかった。
なかなか置けなかったエンドマークを置くために、俺は公園に向かった。
あの時歩いた道順で、レストランで飯食って、繁華街を抜けて公園へ。
当たり前だけど誰もいねぇし。
ベンチに腰掛けてしばらくぼんやりとしていた。
未練ねぇなんて嘘はつかねぇけど、なんかちょっと期待してたのかも、俺。
誕生日なら来てくれるかも、なんて。
わぁ、ナミじゃねぇけど馬鹿な発想だよな。
笑いを堪えて立ち上がった。
うん、心が軽い。
この一年は無駄じゃねぇよな。
好きってどんなことか教えて貰った気がするよ。
ありがとな、ゾロ。
大きく深呼吸して歩き始めた。


 

「ウソップ!!」
不意に名前を呼ばれて立ち止まる。
聞き覚えのある、ずっと聞きたかった声。
でも、この一年聞けなくて、たった今吹っ切ったはずの声。
俺の願望?
恐る恐る振り返る。
「…ゾロっ!」



目の前に立つゾロに何も言えなかった。
何か言わなきゃと思えば思うほど言葉が出ない。
「ウソップ…あの、俺…」
あのゾロが、クールでカッコいいゾロが、
かわいそうなくらい情けない顔をして口をパクパクしている。
ゾロも、俺と同じなんだ。
そう思ったら、何だか急に可笑しくなって来た。
「ふ…フフフ、ハハハハ」
笑いだした俺をキョトンとしてたゾロも、笑うなよ、と笑いだす。
「ゾロ、お帰り。で、いいのか?」
「ウソップ…俺、ここにいていいのか?」
いいも何も待ってたんだぜ?と口を尖らすと、
ゾロが驚いた顔をする。
「待ってたんだ。自分ばっか言いたいこと言いやがって、自己完結すんなっつの。」
切れ長のゾロの目が真ん丸くなった。
「それ…どういう…」
俺の一年。
そんな簡単に話してなんかやんねぇよ。
ゾロの顔を覗き込んで、パッと赤くなる頬にキスをした。
「…はぁ?!」
「教えてやんねぇ!自分で考えろ!」
更にゾロにギュッと抱き付いて。
こんな分かりやすい告白ねぇけど、簡単に言ったりしねぇから。
そんな簡単な気持ちじゃねぇから。



ゾロの腕が、愛おしそうに俺を抱き締める。
何も言わない、何も言えない。
でも、
ゾロの気持ちは分かったし、きっとゾロも俺の気持ちを分かってる。



好き、なんて言わねぇ。
だってもう、愛してるから。






2010ウソ誕SSです。
2009から終わってなかったウソ誕SSをようやく終わらせた・・・
ゾロは今までどうしてたんだとか、なんでここに現れたんだとか、
色んなとこ突っ込みたいとこだらけですけど(それはいつも)とりあえず終わりです。
ゾロ編書けたら書きたいかな。
ああ、自分の文字書きとしての限界を知った感じがします(今更)
でもゾロウソって、噛めば噛むほどと言うか・・・派手さはないけど地味に好きです。
何はともあれ、ウソップ誕生日おめでとう!!(一日遅れw)



2010.04.02

 

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