『好きなんて言えない5』

 


「ウソップ!どういうことよ!!」
バイトに行くとナミがものすごい剣幕で近づいて来た。


「ああ、昨日はごめん。携帯に出なくて…」
「そんなことどうだっていいのよ!!」
「じゃあなんだよ!?」
昨日のこともあって、俺は少し、いやかなり機嫌が悪かった。
好きだと言えなかったこと。
だけど、言える訳もないということ。
何だかとても…理不尽な気がして。
そんな風に思うのは筋違いだとも分かってた。
ほんの少し、俺に勇気があれば、ゾロに想いを伝えることも出来ただろうに。
ゾロと、笑い合えただろうに。


「あんた…ゾロとなんかあったの?」
「ナミには関係ない。」
「ある!!」
あまりの大声に驚いてナミの顔をよく見ると…
「ナミ…泣いて…る?」
「泣いてないわよ!」
明らかに泣いているナミに心底驚いた。
何…何でナミが…?


「ゾロ…バイト辞めちゃったのよ…」
「え……ええ!?」
確かに。
今日は顔を合わせ辛いなと思ってた。
あんなことあって、どんな顔をしたらいいのか分からなかったし。
でも、側にいたいという想いは変わらなかったし、むしろ強くなっていた。
なのに…


「や…辞めたって…なんで?!」「それを今あんたに聞いてるんでしょうが!!」


そっからの俺は、動揺しまくってめちゃくちゃだった。
なんだか耳鳴りがして、頭はガンガン何かで叩かれてるみたいで。
ゾロの家がどこかなんて知らなかったし、携帯やメアドさえも知らなかった事実に愕然としていた。
そこまで繋がりのなかった俺に、ゾロは何で好きだなんて思うようになったんだろう?
何で俺は好きだと思ったんだろう?


「ゾロが初めてバイトに来た日のこと覚えてる?」
「うん…無口で…全然愛想無くて。」
あれ?
そう言えば…確かにゾロは無口だけど、最初はそんなもんじゃなくて…なんつうか。
「すごく角があったのに…取れたわよね。」
「そう!そんな感じ…ってなんでだ?」
ナミが明ら様に呆れたって顔をした。
「あんた、覚えないの?」
「はぁ?」
何だっけ、何だっけ。
懸命に思い出す。


「あ…」


そう言えば。
ゾロが入ってしばらくした頃、他のバイトの連中と揉め事があった。
新入りのくせに態度がデカいとか、生意気だとか。
ゾロはくだらないって顔をしてたけど、俺が見るに見兼ねて間に入ったんだ。
「おまえらつまんないこと言ってんじゃねぇって。ゾロは新入りだから上手く話せないだけだろ?」
それからゾロに向かって、
「ゾロもさ、笑えとは言わねぇけど、眉間のシワは止めとけよ。こえーから。」
って言ったんだ。
そしたらさっきまで揉めてた連中が笑い初めて、そのうちゾロまでが、
「そんなあるか?シワ。」
って自分の眉間を擦ったりしたもんだから、皆が大笑いしてしまった。
ゾロはしばらくキョトンとしていたが、そのうち恥ずかしそうに笑いだした。
「お、いい顔。出来るじゃんか!!」
ニッと笑って、肩をバンバンと叩いたんだ。



「…そう言えば…あれからゾロ他のヤツと上手くやってたような。」
「そうよ。」
はあ、とナミはため息をついた。
「あの時のゾロの顔、忘れられないわ。あんたに肩を叩かれて、その肩を愛おしそうに抱き締めてたもの。」
「ええっ?!」
「あんた達、笑い過ぎて分かんなかったでしょう?」
…もしかして。
「そん時から…なのか?」
「そうね。」
ちょっと投げ遣り気味に、ナミは答えた。


知らなかった。
そんなん出会って一ヶ月くらいの話だ。
「ゾロが元々ゲイだったのかとかは分からないわ。だけど、あの一瞬で、ゾロの目は変わったもの。恋する目に。」
「な、何でそんなん分かるんだよ。」
ナミは黙っていた。
両手で顔を覆い、しばらく動かなかった。
「…ナミ?」
「一目惚れだったから。」
「…え?!」
「ゾロが…好きだったから…いつも目で追ってたの。」


言葉が出なかった。
ナミがゾロを好きで、でもゾロは男の俺が好きで。
なのに俺とゾロを取り持つようなことをして。
どんなに辛かっただろう。
どんなに哀しかっただろう。


パッと顔を上げたナミは俺を睨むと、
「同情は真っ平。」
と言った。
「私は私自身が納得してたんだから、同情なんてして欲しくないの。それにね、」
今度はニッコリと笑った。
「あんたならいいって思ったのよ。」
「ナミ…」
「だから上手くいって欲しかったの。なんで好きだって言わなかったの?」
「…んなこと簡単に言えるか。」
それ以上、ナミは何も言わなかった。
俺の気持ちを察してくれたのかもしれない。


何だかしゃんとしない頭でなんとかバイトをこなし、
うちに戻るとゾロが昨日はここにいたのにと更に悲しくなった。
俺は少しでもゾロに繋がるものがないか、部屋中を探した。
「あるわけねぇか…」
みつけたのは、バイト中の写真で。
誰かがデジカメ買ったとかで撮ってくれたものだった。
「…あれ?」
どれを見ても、ゾロは俺の傍にいた。
傍に、と言うか、付かず離れずの距離。
ふと思い出した。
ゾロはいつだって、俺の側にいた。
さりげなく手助けしてくれた。
ゾロがいるとバイトが楽しかった。
何だかドキドキした。


だから、俺はゾロを苦手と思い込んでいたんだ。
顔を見るとドキドキして、胸が痛んで。
そうだ。
俺はゾロが時々見せる優しい笑顔が好きだったんだ。
そんなゾロが大好きだったんだ。
その気持ちに気付くのが怖かったんだ。
ふと、涙が零れていることに気が付く。


バカだな、俺。


今になって、自分の気持ちを伝えなかったことを後悔していた。
俺はこんなにもゾロが好きだったんだ。
バカだ、ホントに…ホントに…。


声を押し殺して、身体をちいさく丸めて。 泣いた。 ゾロを想って、ゾロを欲して。






ベタ過ぎてどうなんだって感じですが、ウソップがめちゃくちゃ苦しんでいるので満足です(は?
苦しんでるウソップがいいんですよ〜
ワンピキャラの中で一番人間臭い彼だからそう思うのかもしれません。
もう少しだけ続きます。
なかなか終わらない〜年越しちゃう〜(苦笑)


2009.12.24

 

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