『切なる願い5』



甲板に出ると、正に戦闘の真っ只中で。


ゾロは我が目を疑った。


自分に憧れていたと言っていたウソップの正確な射撃、多彩な攻撃。
可愛らしい船医のチョッパーは様々に体型を変化させていた。
見るからに戦い向きなフランキーの戦い方は豪快で。
ナミにしてもロビンにしても、あの華奢な身体からは想像も出来ない戦闘力。
ブルックの軽快な剣さばきも目を見張るものがあった。
いつも悪態ばかりつくサンジも言うだけはあって群を抜いた強さだ。


そして、ルフィ。


しなやかに伸びる手足。
圧倒的な強さ。
「…海賊王…」
思わず口に出た言葉に、ゾロは驚いた。
そして、何かを感じた気がした。
「何だったかな…何か、大事なこと…」


「ゾロォ!!」
ルフィの叫ぶ声。
目の前に斬り掛かる敵。
間に合わない─────
斬られる、と思った瞬間、目の前の敵が吹き飛んだ。
変わって目の前にいたのはルフィだった。
「何で来たんだ、ゾロ!!」
「あ…。」
言葉がなかった。
仲間達と明らかに違う戦闘力。
自分は足手纏いでしかない。
分かっていたはずなのに。
「中入ってろ、敵の数が多過ぎる。」
「…。」
「ゾロ。」
「……はい。」
「俺はお前を失いたくないんだ。」
ゾロはルフィを見た。
優しく、悲しい笑顔だった。


「ルフィ!後ろっ!!」
ナミの悲鳴のような声。
振り下ろされた剣をルフィが避けて、だけど避けきれなくて。
付いた傷から赤い血が流れ落ちた。

 

バクンっ。

 

ゾロの中で何かが弾けた。

 


スリラーバークでバーソロミュー・くまが自分に持ちかけたこと。
ルフィの疲労と痛みを全て取り込む。
舐めていた訳じゃない。
ただ命より大事なことってあるんだなと他人事のように思ってはいたが。
『ルフィは海賊王になる男だ!』
正直、自分でも驚いていた。
でもあの時はそうすべきだと直感的に思っていた。
ルフィはここで終わってはいけないと。


想像を遥かに超える痛み、疲労。
そして。
悲しみ。
ルフィの感覚。
こんなにも皆の力を借りて、皆ボロボロになって。
こんなにも自分はまだ弱いのか。
こんなにも、目指す道は遠いのか。


かつて鷹の目と闘い、同じ思いをしたゾロにとって分かり過ぎるくらい分かる思いだった。
俺はルフィにこんな思いをさせてしまったのか。
俺はルフィの片腕ではなかったのか。
俺は───ルフィの為に何も出来ない。
こんな自分は、もうルフィの傍にはいられない…………ゾロは痛みで遠のく意識の中で、そう考えいた。

 

『俺はお前を失いたくないんだ。』
ルフィ…
俺はお前の傍にいていいのか?


まるでそれはスローモーションのように。
腰に据えられた三本の刀を抜き、たった今ルフィに傷を付けた敵に斬り掛かる。
「鬼斬り!!!」
敵が倒れると同時に、流れ込む全ての記憶。
そして合う視線。


「…ゾロ…か?」
「ああ…待たせたか?」
「そうだな…まあゾロは迷子名人だからな。」
「んだとぉ?!」


ニヤリと笑うゾロがそこにいる。
「ちんたら戦ってんじゃねーよ。オメェらしくもねぇ。」
ゾロが、跳ぶ。
あっという間に薙ぎ倒されて行く敵に、ルフィは嬉しくなる。
ゾロだ。
俺のゾロ。
帰ってきた、俺の元に。
ゾロ、最愛のゾロ。

 

記憶を無くしていた剣士は、そうして全ての記憶を取り戻した。

 

「ルフィ、俺はこのままオメェの傍にいても何も出来ねぇ気がして。だから…」
「ちょっと待てゾロ。」
戦闘が終わって、一味の手荒い歓迎を受けた宴会の後のこと。
「ゾロ、俺もお前も、難しいこと分かんねぇからさ。」
「ああ?」
ゾロを抱き締め、首筋に噛み付く。
ビクッと震えたゾロの耳元にルフィは囁くように話す。
「ゾロにいて欲しい。傍にいて欲しい。それだけじゃ、一緒にいる理由にはならねぇのか?」
一瞬の沈黙。
そしてゾロは吹き出した。
「んん?何か変か?」
「いや…オメェらしいと思ってな。」


ニヤリと笑うゾロの唇に、ルフィのキスが落とされた。





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一緒にいたいから、一緒にいる。
ルフィに理屈なんてありませんよ、ゾロw



2010.01.17