『切なる願い』

 

長い────


永遠とも思える程に長い、
そんな夢から目醒めたような、
何とも言えない感覚だった。


あれ?…俺…なんだったっけ…?


目を開けると、見慣れない天井が見え、
身体は軋むように痛んだ。
指一本さえ動かすのが躊躇われたが、
自分の傍らに眠っている少年が気になり、
指先でその髪に触れた。
同時に、
少年は跳ねるように飛び起きた。

「…ゾロ?……ゾロ!!」

満面の笑みを浮かべ、
「チョッパー!チョッパー!!ゾロが目を覚ましたぞ!!」
そこにあったぬいぐるみをバシバシと叩いたと思ったら、
ぬいぐるみは慌てて飛び起きて俺に近付き、
顔を覗き込んだ。

「ゾロ、俺の顔が見えるか?」

頷くと、何やら身体のあちこちを触りはじめた。
先ほどの少年は、
「ゾロが目を覚ましたぞ〜!!」と、周りに叫んでいた。

「うん、どうやら危ない状況は脱したみたいだ。」
ぬいぐるみが安堵したように言った。
「当分は動けないと思うけど、もう大丈夫だからな、ゾロ。」
そう言って笑顔を見せたぬいぐるみ…
「すいません、お世話になったみたいで。」
途端に、表情が崩れる。
「ゾロ…?」
「ええっと…すいません、よく分からないのですが…」
俺はぬいぐるみに尋ねた。
「それが俺の名前なんでしょうか?」

 

「どういうことだよっ!チョッパー!!」
「そんなに興奮するなよ、ルフィ。」
ルフィはチョッパーに詰め寄って叫んでいた。
バーソロミュー・くまの手によって、瀕死の重症を負ったゾロ。
ルフィの痛みも、疲労も、すべてを取り込んだゾロが生きているのが不思議な位で。
だが、そんなこととは知らない一味は当惑していた。
2人を除いては───。

(マリモのくせにカッコ付けやがるからこんなことに…クソッ!)
(ルフィの痛みも疲労も…全てを取り込んだんだから…お陰で私達は助かったけれど、その代償は大きかったわね…)


「一言で言えば『記憶喪失』。」

チョッパーは重い口調で話し始めた。

「脳は強い外傷性のショックや、精神的なショックを加えると、記憶を保管している部分に障害をきたすことがあるんだ。
 分かりやすく言うと、記憶を閉まっている引き出しから上手く記憶を取り出せなくて、その情報を使えなくなってしまうってことなんだ。
 つまり…過去のことが分からない、思い出せない…。」


一味は誰も何も言わなかった。
いや、言えなかった。


「記憶喪失にも色々ある。衝撃の強さに応じて2時間分くらいの記憶だったり、1ヶ月分の記憶だったり。ゾロの場合は…」
チョッパーは大きくため息を付いた。
「全部…と言っていい。俺達のことも、自分のことも…」
「それは、治らねぇのか?!」
ウソップが堪らず声を上げた。
「そのうち、治るんだろ?なあチョッパー!」
「…分からない。今日記憶が戻るのか、明日なのか…それとももう…」
「嘘だ!!」
叫んだのはルフィだった。
大きな目を見開き、涙をいっぱいに貯めて。
「ゾロは強いんだ、世界一の大剣豪になるんだ!俺と一緒にって、約束したんだっ!!」
チョッパーに掴み掛かろうとしたルフィを大きな手が遮る。
「シカゴリラがそう言ってんだ、間違いねぇのは分かってんだろ?」
フランキーの言葉に一瞬怯んだが、
今度はフランキーに食って掛かる。
「ゾロがっ、ゾロがっ…ありえねぇよ!!」
「そう診断した、シカゴリラが辛くねぇとでも?」

ハッとした表情にルフィが変わる。
チョッパーを見ると、ワナワナと震えていた。
「俺は…俺は…医者なのに、何もしてやれねぇんだ。俺は、何の役にも立てない!!」
「止めて!!」
今度はナミが叫んだ。
「ルフィ。気持ちは分かるわ。それは私達も同じだもの。でも誰を責めることは出来ない、それは分かるでしょ?」
ルフィは黙って頷いた。
「どうであれ、ゾロは生きてるわ。希望を持ちましょう。アイツは…とことん強運なヤツなんだからっ!」


ナミの言葉に全員が頷いた。
頷かずにはいられなかった。



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サイト開設一周年記念SS・・・にしようと思ってたんだけど、PCの引越し等々がうまくいかなくて(泣)
すっかり遅くなってしまいました。
ええっと、こりゃもう王道だね!ってくらい王道なw記憶喪失もんです。
なんでこれ書こうと思ったかと言うと、「敬語でしゃべるゾロ」の妄想にハマッてしまったから(笑)
もうホントおバカよね〜・・・
そんな訳で、ちょっと続きます。
希望はルゾロっぽく!なんですけど、どうなるかな・・・(自信はない)

そんな感じの私ですが、いつもありがとうございます!!
感謝いっぱい!!
ホントにありがとう!!
これからもよろしくね!!!



2009.12.01