『 待っててくれ 2 』


出港の日の朝。
おれはみんなにゾロの話をした。
誰も何も言わなかった。
もしかしたら、みんなは何かを知っていたのかもしれない。
自分だけ、聞かされていなかったのかもしれない。
だけどそんなことはどうでも良かった。


ゾロは船を降りた。
ゾロはもう、船には戻らない。


おれはそれを認めた。


船に乗る前にゾロに会いに行った。
ゾロとは思えない、弱々しい姿が横たわっていた。
首も動かせず、目だけがおれを捕らえ、ゾロは笑った。
自嘲気味な笑い方。
それは変わらない、おれが知ってるゾロだった。


「行くのか……」
か細い声でゾロが言う。
「ああ。予定通り出港する。」
そうか、と言うとゾロは大きく息を吐いた。
何も言えないゾロに、おれは言った。


「またな、ゾロ。」


ゾロは大きく目を見開いた。
暫くおれの目をジッと見て、それからニヤリと笑った。
「ああ。またな、キャプテン。」

 


サニーに乗り込み、港から徐々に離れていく。
ウソップはずっと泣きっぱなしで、ナミも
「何で今離れんのよ。最期まで一緒にいたらいいじゃない。」
と、泣くか怒るかどっちかにしたらいいのにって感じで。
「ナミさん、男はそんなもんなんですよ。」
サンジは煙草をくわえたまま、空を仰いで、小さく「クソ……」と呟いていた。


イーストブルーの海ではおれたちはたった5人で。
だけど、こんなすげぇ5人は他にいねぇ。
チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック、仲間は増えてホントにホントにすげぇ奴らばっかで。
それを最初からおれの横で見ていたゾロは、
ゾロは……


「フランキー、サニー翔ばしてくれ。」
「あ?……ああ、いいのか?」
「ああ。いい。」


ずっと目を離せなかった港から、おれは初めて目を離した。
立ち止まるわけにはいかない。
おれは、おれはキャプテンだから、船長だから。
そうあることを、きっとゾロも望んでいる。

 

「ルフィィーーーーーーー!!」


怒号が響き渡る。
まさかの声に身体が固まる。
「ルフィっ!……ゾロがっ……!!」
振り向くと、間違えようのない姿。
緑色の髪、左耳の三連ピアス、左目の刀傷。
そして、三本の刀。
「ゾロ……」
ゾロは愛刀、和銅一文字を抜いて真っ直ぐとその剣先をおれに向けた。


刹那───────


斬撃がおれに向かってとんできた。
真っ直ぐに、真っ直ぐに!!
「「「「「「ルフィ!!!」」」」」」
皆が叫び、同時に顔の左側に衝撃が走った。
血の臭いがして、おれは斬られたのだと自覚した。


「お前は……ルフィ、お前は!この俺が倒す!!次会うときまでに誰かに殺られてんじゃねえぞ!!」
大きく肩が上下する。
向こうから、チョッパーがゾロの名前を呼びながら走って来るのが見えた。
「約束しろ、ルフィ!!お前は……俺がっ!」
「分かった、ゾロ!」
ワクワクする。
そうだ、このワクワク感はゾロといる時にしか感じない、特別な特別な、そんなワクワク感!!
「おれは負けねぇよ、ゾロ!お前に次会うときまで絶対負けねぇ!!」
自然と顔が笑顔になる。
右手の拳をぐっと前に突き出す。
「次会ったら勝負つけよう!拳と!」
「……剣と!」
「「おれが勝つ!!」」

 


「フランキー!!翔ばせ!!」
「おうっ!!!」


あっという間に、
ゾロは見えなくなった。
皆、泣いていたけどおれは泣かなかった。
実感が湧いてなかったのと、
約束を噛み締めていたのと。
いつかきっと、
会えるから、と。

 

2週間ほどして、
チョッパーが合流した。
何言ってんのか分からねぇほど号泣して。
「一番辛い事させちまったな。チョッパー、すまん。」
チョッパーは、病気なら治したかったと言った。
「無理矢理延命することは、やっぱり辛いことなんだよ。」


ようやく落ち着いたチョッパーは、あれからの事を話してくれた。
あの後ゾロは倒れた。
そして1週間眠ったままだった。
目を覚ましたゾロは、チョッパーに礼を言い、最期の伝言を遺して息を引き取った。


「トーンダイヤルに?」
「ああ。これに声吹き込んで、それから……楽しかったなって……」
「……そうか。」
おれはトーンダイヤルを押した。

 

『皆、ルフィが馬鹿やったら、全力で止めろよ。ホント馬鹿だからな、俺達の船長は。』


『……ルフィ、ちょっと先まで行ってっから。お前冒険続けて、後で話、聞かせてくれよな。お前の話は、酒の肴に丁度いい。』


『頼んだからな、約束、だ。』

 

思っていたよりずっとはっきりとした声で、ゾロは俺達に言葉以上のものを遺してくれた。
皆はもう泣いてはいなかった。
当然だろと笑い合う。
ゾロから受けた刀傷は、痕が残った。
まるでゾロのような刀傷、その傷を指でなぞった。
「約束な。」
空を見上げ、そう呟いた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ゾロ、良い酒を見つけたから持ってきたぞ。」
「おれはすぐ忘れちまうからな〜!ゾロに話出来なくなっちまうと困るからな!」


シモツキ村が、桜の花で埋め尽くされるこの時期。
おれはゾロに会うためにこの村を訪れる。
ゾロみたいだと皆で笑った緑色の桜の下で宴会をする。


「ゾロ。ちゃんと負けてねぇからな。お前も負けてんじゃねぇぞ。」


なぁゾロ。
世界は広くてまだまだ面白れぇ事はたくさんある。
お前の代わりに見て、お前に話してやりたい。
「会うのはみーんなこの目で見てからだ。だから……もうちょい待っててくれ。」


桜の木が返事をするかのように揺れた。


 


2014.06.28


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姉には「なんで死なすのや!!」と激しく叱責されました、ええ、私が悪いのですw
友人たちには一緒に泣いてもらいました。
自分の書いた話で、こんな風に泣いてもらえるとは思ってもみなかったので、なんか嬉しかったです。

正直、この話を思いついた時は書ききれるとは思ってませんでした。
だって、ゾロが死んじゃうんだもん。
でもね、ゾロとルフィはこうであってほしいなって思ったんです。
いつか尽きる命。
どちらかが先に。
こんな別れ方もあるのかもなぁ……って。

泣きながら書きましたがw 
書けてよかった!



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