『Hand Power』
ん・・・・?
なんだ?どうした?
・・・おい、どこ行くんだよ。
おい・・・おいってば!
行くな、行くなよ・・・
ここに、俺の側にいてくれよ・・・
行くなよーーーー・・・・
・・い、おい・・・
・・・フィ・・・ルフィ・・・・
『ルフィ!!』
目の前に、面倒くさそうな表情をしたゾロの顔があった。
「ゾロ?」
「『ゾロ?』じゃねえよ。うんうんうなされやがって。うるせぇったらありゃしねぇ。」
「うなされてた?」
「ああ、また昔の夢でも見たのか?」
昔の?シャンクスの?
「ん・・・・どうだったかな?」
「あぁ?!覚えてねぇのかよっ?!」
ゾロが信じられないって顔をした。
よほどうなされていたらしい。
寝ぼけているのか、なんだか記憶がハッキリしない。
「大したうなされようだったんだが・・・まあいい、とりあえず」
ゾロが左腕の手ぬぐいを外して、俺に差し出した。
「ほらよ。」
「ん?なんだ??」
「なんだって・・・拭けよ、涙。」
「なっ・・・俺は泣いてなんか・・・」
慌てて頬を触ると、くっきりしっかり泣いた跡。
しかも、かなりの号泣。
なんで俺こんなに泣いて・・・・
あ、あ、あーーーーー!!!
思い出した!
夢・・・どんな夢だったか!!
「こんなのはこうやっときゃいいんだよっ!」
俺は腕で顔をゴシゴシと擦った。
恥ずかしさのあまり、顔が赤くなっていくのが分かった。
ゾロの顔をまともに見れない。
どうすることも出来なくて、シーツを頭からかぶった。
「ほっとけよっ!!」
「んだとぉ?!ルフィ、てめぇ!・・・」
何かを言いかけて、ゾロは黙ってしまった。
俺はいつもゾロを怒らせてばかりだ。
そんなつもりはないけど、なぜかそうなってしまう。
長い沈黙・・・
海の、波の音と、みんなの寝息しか聞こえない。
ゾロはそこにいる。
ゾロの気配が、そこにあるのが分かる。
俺が寝付くのを待ってるんだろう・・・多分。
ゾロはぶっきらぼうな物言いで、怖いだの、醒めてるだの言われてるけど、
本当は仲間想いで、優しい。
シーツから顔を出すと、ゾロが意地悪そうな顔をして笑った。
「なんだ、眠れねぇのかよ。」
「夢。」
「ああ?」
「ゾロの夢を見たんだ。」
「俺の?」
ゾロが意外そうな顔をする。
「俺を置いて、どっか行っちまうんだ。
呼んでも呼んでもちぃーーっとも気にならねぇみたいで・・・
そんで、俺・・・追いかけたんだ。
でも、体が全然動かなくて・・・そんで、そんで・・・・
見えなくなって・・・・・・・ゾロが起こした。」
ゾロの切れ長の目が、少し大きくなった。
俺の目をじっと見ている。
「ったく・・・」
「え?」
「ば〜〜〜か、お前みてぇな危険人物、ほっとけるかよ。」
「きっ、危険人物って・・・ゾロに言われたかねぇよ。」
「俺がどこへ行くって?ここにいるだろうが。馬鹿なこと言ってねぇで、ほら、寝ろ寝ろ!」
ゾロが俺の頭を乱暴にクシャクシャっとした。
大きくて、強くて・・・
そして暖かくて、優しい、
ゾロの手。
「そうだな、ゾロはここにいる。どこにも行かない。俺の側だ。
それにゾロは超方向音痴だからな〜〜〜〜!一人で行かせたら迷子だもんな!!!」
「うっせぇ!お前が言うな!!」
またゾロを怒らせたか。
でもゾロ、顔笑ってる。
安堵したのか、眠気が襲ってきた。
うとうとしかけた俺にゾロが囁く。
『ルフィ、俺はどこまでも、お前と一緒だ。』
そう言うゾロの顔は、今までに見たことがない、優しくて、なんだか切ない・・・・
目が覚めると、ゾロはいなかった。
俺の手には、ゾロの手ぬぐいが握りしめられていた。
『こら〜〜〜〜!ゾロ!!
まだトレーニングしちゃダメだって言ったろ!!
医者の言うことはちゃんと聞けよ!!!』
『うっせぇ!こんなん唾付けときゃ治る!!』
『そんな訳ないだろ!!』
ゾロとチョッパーだ。
あいつら朝からやってるな〜〜。
さてと、俺も行くかな。
手ぬぐい、返してやらないとな。
あ、そうだ、ゾロに言っとかないと。
『医者の言うことは聞くもんだぞ。』