『帽子』

 

 

自分の足がもどかしい。

もっと速く走れたらいいのに。

速く、速く。

あの人が待ってる。

 

 

 

「ルフィ、ちょっと部室まで付き合ってくんね?」

「いいけど、なんで?」

「忘れ物しちゃってさ、そっからそのまま帰ろうぜ。」

「おう、分かった。」

 

試験期間に入ったから、部活をしているやつもいなくて、部室も閑散としたもんだった。

「あれ?剣道場に誰がいるわ。」

「え?」

「ああ、ゾロ先輩だ。」

たまにウソップの話に出てくる『ゾロ先輩』。

弓道をしているウソップは、武道系の部活をしているやつと交流があるらしく、

剣道部主将のゾロ先輩とも仲がいいみたいだった。

 

「ゾロ先輩!先生に見つかったら怒られますよー!」

「なんだウソップか。」

「なんだって、失礼っすね〜相変わらず。」

「ん?見ない顔連れてんな。」

俺のことか?

そう言って近付いて来たゾロ先輩。

初めて見るけど…なんかカッコいいなぁ。

一度見たら忘れられない、そんな感じのする人だ。

「あ、ルフィですよ、いつも話してる。」

「初めまして、ルフィです。」

「へぇ、お前がルフィか。俺ゾロ。」

 

そんなこんな話をしている内に、試験が終わったらみんなで映画でも行こうって

話になってしまった。

ゾロ先輩と映画。

なんか、ドキドキするな。

「俺、一緒でいいのか?ウソップ。」

「は?何言ってんのお前。三人で約束しただろ?」

試験終るの楽しみだな〜と言うウソップ。

うん、なんだかすごく楽しみだ。

俺、ゾロ先輩に会えるの、楽しみだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「え?!駄目になった??」

映画に行く当日の朝、ウソップからドタキャンの電話が入った。

「すまん!ちょっと風邪ひいたみたいでさ、熱っぽいんだよ。」

「え!大丈夫か?」

ゴホゴホと咳き込んでから、

「ゾロ先輩には俺から断り入れとくから。」

とウソップが言った。

ゾロ先輩…会えないんだ…。

ウソップには悪いけど、よりによってこんな時に、と思わずにはいられなかった。

電話を切って、ベッドに寝転がる。

はあ…とため息をついて、何だか気が抜けたのか、ウトウトとしてしまった。

 

 

携帯の着信音で目が覚める。

登録のない携帯番号。

誰だろう?

「…もしもし?」

「お前、何やってんだ?」

「はい?」

何?何だ?間違い電話??

「間違いじゃねぇぞ、俺だ、ゾロだよ。」

「!!!!」

何でゾロ先輩から電話がーー?!

「人を待たせんじゃねぇよ、早く来い。」

「え?だって、ウソップ具合い悪いから駄目になったって。」

だからふて寝してたのに。

「お前も具合いが悪いのか。」

「そんなことはないですけど。」

「じゃあ来い。今すぐ来い。」

 

一方的に電話を切られて、暫し呆然とした。

「今すぐ来いって??」

慌てて支度をして家を出る。

待ち合わせは近くの駅だった。

歩けば10分ほどだけど、その時間さえもどかしい。

走った。

力一杯、目一杯。

待ってるから、待ってるから。

ゾロ先輩が待ってるから。

 

 

駅に着くと、入口のところに立っているゾロ先輩を見つけた。

野球帽を深く被って…うわぁ、不機嫌そう…。

 

「ゾロ先輩!ご、ごめんなさい!!」

顔を上げたゾロ先輩。

あれ?何も言わない。

なんか、変な顔をしてる。
「ぶ、ぶははははは!!」

突然大笑いする。

何?何だ?

「ルフィ、お前寝起きか?!」

「ええええっ!?何で分かるんすか??」

うぎゃあ!

                    harukiさん画

クックッと笑いを堪えながら、

「髪、爆発してるぞ。」

と、ゾロ先輩は言った。

「げ!マジで?!」

駅の窓ガラスに顔を映す。

髪はボサボサで跳ねてる。

走って来たせいかオデコも全開だ。

これはかなり恥ずかしいことになってる。

顔が真っ赤になっていくのが分かった。

が、ゾロ先輩のあまりの爆笑ぶりに、なんだか俺までおかしくなってきた。

肩の力が抜けて、髪のことはどうでもいいような気がした。

「そーんな笑うことないじゃないですかー、急いで来たのに!」

「わ、悪い、悪い。これ、被ってろよ。」

ゾロ先輩は、自分の帽子を俺に被せた。

「お、良く似合ってるぞ。笑ったお詫びにやるよ、それ。」

優しく微笑むゾロ先輩から、目が離せない。

心臓が有り得ないくらいに騒いでる。

 

「お、やべっ!映画始まっちまう!急ぐぞ!!」

ゾロ先輩は、俺の腕を掴んで走り始めた。

慌てて必死に走る。

鼓動がドンドン速くなっていく。

走ってるから?

それとも…?

例えようのない感情に戸惑いながらも、この時間がいつまでも続いたらいいと俺は思った。

 

 

加速度を付けた俺の気持ちは、きっともう止まらない。

ゾロ先輩に向かって、真っ直ぐに。



 


 

自称、清純派な私は(笑えない)「甘いゾロルが描きたいな!」って言う絵描き友達の
harukiさんのために、甘いゾロルSS書きましょうか?なんて、無謀にも言ってしまいまして・・・。
で、「ゾロルパラレル」を書こうってことになったんですね〜〜〜。
すいません、無謀でした、ホントに・・・。
で、続いちゃったりしてます。
ホント、ごめんなさい。

 

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