『その背中に手は届くのか』
その背中は、追い掛けても追い掛けても届かなくて。
近付いたかと思ったら、俺の手を霞めてまた遠く離れてしまう。
俺はいつまで経っても追い付けないのか?
田島。
お前はどうして、そんなに強いんだ?
「田島くんが誰を目標にしてるかって?」
モモカンと話をしていて、ふとこんなことを聞いてしまった。
「あ!いや、なんでもないっす!!」
「はーなーいーくん。なんでもなくないからつい口に出ちゃったのよね〜?」
しまった…モモカンには敵わない。
「いや…俺は田島を目標にして、追い掛けて。
正直全然追い付けないから目標としてどうなんだろうとも思うけど。
でも、目の前にアイツいるから、俺は頑張れる。
だけど、田島はどうなんだろうってこの間の埼玉高戦の時に思ったんです。」
「ふうん…なるほどね。」腕を組んで聞いていたモモカンの顔が…ニヤケていた。
ああ、やっぱり言いたくなかった…。
「それで?」
「え?ああ…田島って、どうやって上手くなってんのかなって思って。」
モモカン。
顔が怖いぞ、何企んでる顔だ、それは。
「田島くんが上手い理由、それは天性のセンスってこと、分かってるよね?」
うん、それは分かっている。
田島って色んなこと恵まれてるなって思う。
「でもそれだけじゃないと思うの。」
モモカンが、俺の顔を覗き込む。
「それは、誰にも負けたくないっていう負けん気の強さ。」
「負けん気?」
そんなの、スポーツやってるヤツならみんなそうじゃないのか?
「田島くんの負けん気の強さは半端じゃない。打つと決めたら打てるまでこだわる。しかも、」
「しかも?」
「あれは恐らく無意識なんじゃないかしら。」
無意識?!
「本人も分かってないのかもね。」
なーにー?!
「田島は打てたら面白いからやってるのよ、きっと。」
カラカラと笑うモモカン。
そんなのそんなの、敵う訳ないだろー?!
顔が引き攣る。「だけどね、花井くん。」
「はい?」
「追われる立場からして、追って来る存在が気にならないと思う?」
「…気に…なると思います。」
モモカンがまたニヤリと笑う。
「そうね、田島くんから見たら、レベルを上げて来る花井くんの存在は気になるよね?」
田島が俺を気にする?!
「負けん気の強い田島くんよ。追い付かれまいと猛練習するわよね、多分。」
「それって…」
「追われる人間にとって、追って来る人間は重要なの。それこそが、上達する鍵になる。」
モモカンが俺を指差す。
「つまり、田島くんが上達する鍵は花井くん、あなたなのよ。」
俺?!
「ま、ライバルってやつよね!」
ライバル!!
モモカンの言葉を聞いた途端、カァっと身体が熱くなってなにかが込み上げてきた。
ジワッと涙ぐむのが分かった。
慌てて拭ったけど。少し驚いたような顔をしてから、ニヤリとまたまた笑うモモカン。
「花井くん!青春ね!!」
と背中をバンと叩かれた。
「はあ??」
「頑張ってね〜!期待してるから!!」
手をヒラヒラさせて、練習に戻って行ったモモカン。
よくわからないけど、何だかすごくやる気出て来たし、すっきりした。
うん、モモカンの監督の資質ってすごい。
いくら追い掛けても、届かないあの背中は、追い付かれまいと、走り続けてるんだ。
そりゃ簡単じゃないよな。
田島。
やっぱお前スゲェ。
尊敬するよ。
でも、だからこそ追い付きたい。
その背中に触れたい。
いつかその肩を掴んで振り向かせたい。
その時のお前の顔、見物だな。
やるぜ、俺は。
田島。
覚悟しとけよ。
初めて書いた振り小説です。
ぐわあああああっって振りウェーブが来た感じがしました。
実はこれ最初に書いたときって、コミックを一回読んだだけだったので、
モモカンが異常に男らしくて(汗
今回いい機会だったので、女性らしく書き直して見ましたw