『誘う瞳2』



口の中が急にカラカラになって、視野も狭くなり、俺の目は今阿部しか映っていなかった。
心臓がバクバクと鳴っていて、胸を押さえてないと飛び出してきそうだった。


誰もいないのに、
俺を呼んだ。
しかも、明らかにお互い欲情しているのが分かっていて。
だけど───
いいのか、阿部。
本気なのか?
迷いがある。
その一線を、
俺達で越えるのか?


迷っていた俺の腕を、阿部が掴んだ。
かと思ったら、俺の顔も見ずに俺をグングン引っ張って行く。
「お、おい阿部…」
一度振り返らず自分の部屋に入り、ようやく振り向いた。
「田島触っただろ。」
「へ?」
「頭、ガシガシって。」
「あ…ああ。」
唐突な話で訳が分からなかった。
ただ、阿部はまた不安で堪らないと言う表情をしていた。
「嫌だった。」
「…」
「触んなよって…花井にとって何でもねぇことだと思うけど…何か自分で自分がよく分かんねぇんだよ。」

切なくて。
誰かに相談なんて出来ないし、でも一人で抱えるには大き過ぎる想いで。
「花井。」
真っ直ぐと俺を見るその瞳は…
迷いもなく、俺を求めていた。
「俺の頭ん中めちゃくちゃなんだよ。お前でいっぱいで、すげぇ嫌なヤツで。」
「阿部…。」
少し潤んだ瞳は阿部の本気を物語っていた。


俺は大きく呼吸をすると、ポケットから携帯を取り出した。
「あ、母さん?俺今日阿部んちに泊まるわ。え?家族みんないなくて、阿部一人だって言うから。うん、分かってるって。じゃあ。」
携帯を切って、阿部に視線を戻すと、驚いた表情をしていた。
「今更…引き返せねぇからな。」そう言って、阿部を抱き締めた。
「ああ…分かってる。」
阿部も俺を抱き締めた。


それからは────
欲望の赴くままだった。
阿部にキスをして、舌も、歯も、口の中を全部舐めても足りなくて。
首筋も肩も腕も指も。
胸につく小さな突起を舌で弄ると阿部は大きな声をあげた。
「ん…あぁっ!」
あの冷静な阿部はどこへ行ってしまったのだろかと思う程に、今目の前にいる阿部は別人だった。
浅く早い呼吸を繰り返し、悶え、喘ぎ、俺を求めて何度も俺の名前を呼ぶ。
「あ…はな…い…」
阿部のものが次第に堅くなり、手で刺激すると阿部の声は更に高くなった。
「花井…花井…」
恥ずかしさと嬉しさと、後ろめたさと罪悪感と。
入り混じった表情で、尚も俺を求める阿部。
夢じゃないんだろうか。
幻じゃないんだろうか。
目を閉じて、開いたら阿部はいないんじゃないんだろうか。
こんなにも、こんなにも。
愛しくて、大切で、離したくなくて。
好きだ、大好きだよ阿部。
だから…
もっと俺に、阿部の全てを見せてくれ。



─────────────


目覚めた時、腕の中で眠る阿部を見て安堵した。
ああ、良かった、夢じゃない。
結局俺達は、出来なかった。
正直やり方が分からなかったことと、恐かったことと。
お互いのものを手や口で刺激し合い、何度も昇り詰めた。
眠る阿部の頭を撫でながら、先行きを考えて不安になる。
だけど、この想いを止めることは出来ないから。


「ん…花井…おはよ。」
「おはよ、阿部。」
しばらくの沈黙。
ガバァっと飛び起きて、バツが悪そうな顔をして俺を見る。
「…どうか、したのか?」
「あ…いや…」
しどろもどろな阿部。
不思議に思って見ていると、とんでもないことを言い始めた。
「きっきのうは俺なんかおかしったんだよっ…だから…」
「はあ?!」
バタバタと自分の服を探す様子を見ていたら、何だか可笑しくなってきて。
「…何笑ってんだよ…」
「いや、可愛いなって思って(笑)」
「はぁ!?お前ふざけんなよっ!!」
真っ赤になって、枕をぶつける阿部がホントにホントに可愛くて。
離れらんねぇなと改めて実感した。
俺は暴れる阿部を抱き締めて、おはようのキスをした。



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