『冷たい雨』

 

こんな冷たい雨の降る日は、あの時のことを思い出す。

あの日も、こんな冷たい雨の降る日だった。
いつも並んで歩いていたのに、ふとアイツの足が止まった。
振り向いた俺にアイツは言った。

「俺…もうゾロとは一緒にいられねぇ。」

哀しい笑顔。
そして俺に背を向け、そのまま降り頻る雨の中、走っていった。

何も言えなかった。
ただ、走り去るアイツを、振り向かない背中を、見えなくなるまで見つめ続けた。


こんな日がいつか来ると、どこかで覚悟していたのかもしれない。
案外アッサリとこの状況を受け入れたけれど、こんな雨の日はしまい込んだはずの記憶が甦る。

なあ、ウソップ。
あの冷たい雨よりもずっと、俺はお前の心を凍えさせていたのか?
そして今、お前は笑顔でいるのか?


届くはずのない想いを、空に向かって投げ掛けた。
見上げる空は暗く冷たい。

 


「おーい、ここだ!ウソップ!」

たった今、想いを廻らせていた人物の名を耳にして歩みが止まる。
心臓が高鳴る。
空耳、だろうか。
ゆっくりと声のした方向に視線を向ける。

「わりぃ、サンジ。遅れちまって。」

傘で顔は見えない。
が、声でウソップと分かる。
待ち合わせしていたらしき二人は、何やら楽しそうに話し始めた。

気付かれないように、その場を離れる。
良かった。
お前は今、笑顔でいるんだな。
それがずっと、気がかりだったんだ。
そうか、良かった。

安堵したはずなのに、俺の気持ちは晴れなかった。
俺は全く、あの日から進んでいなかったことをようやく理解した。

鼻の奥がジンとした。
目頭も何だか熱くなってくる。
『もう一度だけ』
その姿が見たい。
耐えがたい欲求に、俺は歩みを止め振り向いた。
傘と背中。
そしてクセのある黒髪。
いつも身振り手振り懸命に喋るから、休みなく手が動いている。
その仕草に思わず笑みが溢れた。
俺と別れたのは間違いではなかったんだな。

 

雨が止みそうだ。
少しだけ、空が明るくなってきた。
空はいつか晴れるけれど、俺の心が晴れる日は来るのだろうか。
そんなことを思いながら、この広い街で、たくさんの人の中で、
偶然出会うことなど二度とないと自分に言い聞かせる。
込み上げてくる寂しさを抑え、再び歩き始めた。

 


 

 


 

久しぶりにSS書いた気がする・・・。
ううん、書き方忘れた(泣)
何気に続くかもしれません。
このままだと単にゾロが振られたことになるから、それはちょっと嫌(笑)
振られるにしても、ゾロが納得してて欲しいのだ。




NOVEL TOP