『 最強 』  by 水城ひかるこさん

 

強くなりたい。

身近な対象が不意に居なくなったからではない。
俺の中では、初めて剣をこの手に握った日から、ドクドクとたぎる血潮に確かに呼ばれていた。

来い、ただ来いとだけ呼ぶ遠い声。

最初は声とも気づかずに、海鳴りみたいに感知していたソレ。
俺はその声に、思えばずっと誘われていた。
「最強」
最も強くなること。
俺はソレを目指さねばならなくて、きっかけがあって故郷を出ることになった時は、直ぐに「出来る」とそう思い込んでいた。

井の中の蛙。
故郷が最弱の東の海に位置してるとも知らずに、ただがむしゃらに強さを求めていた。

「捕まえたvv」

ルフィに助けられた時は、いい加減、東の海で俺も俺の名も真っ赤な血に染まっていた。

弱いクセに、向かって来る意味が解らずに斬ってしまった人間達。
最初はその肉を斬り、骨を断つ感触に震え、嘔吐さへしたのにすっかり慣れてしまった人を斬ると云う感覚。

鋭利な刃物はスルリと肉に吸い込まれ、赤い線を引いたみたいに血液が吹き出して脂肪や内臓をも斬る。

ソレは余りにもあっけなくて、まだ温かい肉体は他愛なく死によって失われるのだと知った。


簡単に上がる悪評。
俺は賞金稼ぎと名乗ったこたぁなかったが、人の姿をした魔獣と呼ばれるようにはなっていた。

独りきりで最強を目指す俺は、他人に関わる事を避けていたので、自然立ち向かって来た奴らはみんな斬り捨てていた。

チリチリする肌。
何かがチガウ感覚。

「相手の血を浴びるなんて、ダッセえ」

突然、隣で聞こえる声。
その声は、責める訳でもなく、単にカッコワリィと淡々と云っていた。

いつか遠くで聞いていた声が、急に隣で響いてその近さに驚く。
ソレは最早漠然としたモノなんかではなく、「声」として俺はハッキリと認識していた。

「出来ねェの?」

確かに、血に餓えた野獣とか魔獣とか、近頃の評判は冗談じゃねェ。
斬った血飛沫が飛ぶ方向なんて、切口の角度で決まるのだ、ソレ位は俺だって制御出来る。
俺は誰とも知らない声に向かって、いつも鼻で笑われると「出来る」と呟くのが普通になった。

声は他にも、「眠れる時に寝ておけよ」とか、「早く来いよ」とか、「なんだソレ?」とか、色々と俺が独りの時に近く、あるいは遠くで話し掛けて来ていた。

孤独が聞かせる幻聴。

俺は「最強」迄、ずっと独りで掛け上がるつもりだった。

誰にも支配などされない。
誰も隣になど並ばない。

ただ、内なる声と共に、何処迄も強くなる事だけを挑み生きて来た。
ソレが自然とスキルアップになってたと気がついたのは、随分後だったけど。

 

なぁルフィ。
お前捕まえたって、確かに俺に最初に言ったよな?
アレ、どういう意味だったんだ?

傍若無人なルフィの声。

お前が俺の隣に並んでから、聞かれなくなったアノ声も最初から遠慮会釈もなかった。
アレもしかしてお前だったんじゃないか?
アノ声に名前を呼ばれた事はなかったが、ルフィに「ナイス、ゾロ」と言われて、素直にルフィを船長と呼んでいた。

今は再び聞こえる事は無くなった声。
今は隣で、俺の誓いに頷いたルフィがいる。



 



ひかるこさんからお見舞いで頂戴しました〜!!
リクエストは
「出会う前の、でも誰かを求めてる」
そんなゾロ過去話でした!!
ばっちりです!!
ひかるこさん、どうもありがとう!!!

 

 2010.08.23

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