『 それは極上の味 』

 

コーティングされたサニーから見える景色は今まで見たこともないもので。
海王類や見たこともねぇ魚。
ルフィやウソップ、チョッパーはずっと大騒ぎしている。
俺はいつもの場所で横になり、何となく船外の景色を眺めてはトロトロと眠る。


二年前のあの時。
こんな日がやって来るとは思わなかった。
まさかあの鷹の目に教えを請うとは想像もしていなかった。
この二年は充実した、中味の濃い時間だった。
もちろん、ルフィがどうしてるかいつも気にはなっていたが、
本来あれこれ悩むのは性に合わないタイプだ。
己の修行のことに集中することを心掛けていた。


あのホロホロ女…ペローナにも、世話になったな…
「………あ。」


「なんだ?「あ」って。」
気が付くと、ルフィが俺の顔を覗き込んでいて、その後ろにはウソップとチョッパーがいた。
好奇心たっぷりの笑顔。
こいつら…相変わらずだな。
小さく鼻で笑って、
「何でもねぇよ。」
と答えた。


途端にルフィがちょっと不機嫌そうに眉をひそめた。
「何でもなくねぇ感じだったぞ。なぁウソップ。」
「うん?あーそうだったな。何か思い出した感じだった。」
よく見てんな、こいつら。
俺は確かに思い出していた。
去年の今頃。
ペローナに手当てをしてもらっている時…

 

「ってぇ!お前もっと優しく出来ねぇのかよ!?」
「うるさい!毎日毎日こんなに怪我して来やがって、手当てしてもらえるだけでもありがたいと思え!!」
顔を見れば可愛くないだの、馬鹿だの言う、やかましい女。
ナミといい勝負なくらい自分に自信があって我儘だ。
それでも、手当てはしてくれるし、食事も用意してくれる。
俺が頼んだこともやってくれている。
「これ、今日の新聞か?」
「おっお前が言ったから見てる訳じゃねぇぞ!退屈だし、もしかしてモリア様のことが分かるかもしんねぇし!!」
ルフィがまた何か連絡を寄越すかもしんねぇ。
毎日新聞を読んで欲しいと頼んでいた。
ペローナはぶつぶつ言いながらも新聞を読んでくれていた。
だから俺はどんな悪態を付かれても、感謝していた。


「11月11日…か。」
「あ?ああ、今日は11月11日だな。」
「…誕生日だ。」
「は?なんだお前誕生日なのか?!」
「…ああ。」
ペローナが急に何やら楽しそうな表情に変わる。
「なあなあ、何歳になるんだ?」
「20歳だな。」
「へぇ〜」
「そういや…俺の住んでた村じゃ、20歳の誕生日に派手に祝いをしたっけな。」
「ふーん…」
ペローナの目が、思いを巡らす様に天井に向けられた。
しばらくするとニッと笑い、
「手当ては終わったぞ!ついでにそこでちょっと待ってろ!」
ホロホロ言いながら飛んで行った。


待てと言われても、どこへ行く訳でもねぇし。
ただ、身体はくたくたで今すぐ眠りたいと思った。
ああ、でも腹は減ったな…
ぼんやりと考えていたら、ドアが開いた。
そこにはペローナと鷹の目の姿が。
「ああ?何だ??」
「この島に食い物はろくなもんはねぇけど、酒だけは極上らしいぞ!!」
「はぁ?」
「…20歳か…もっと長生きしたくば、もっと強くなることだな、若造。」
「…鷹の目…」


ペローナは極上らしいと言うワインを持っていた。
鷹の目はワイングラスを持っていた。
「誕生日は祝うもんだぞ!」
ペローナはニッコリ笑い、
「あっ!別にお前の誕生日たがら祝った訳じゃねぇぞ!退屈だったからな!」
と、また悪態を付いた。
「お前は回りくどい性格をしてるな。」
「なっ何がっ?!お前は何か勘違いしてんじゃねぇのか!?」
鷹の目を捕まえて、お前呼ばわりする女は世界広しともペローナくらいだろう。
何だかおかしくて笑った。
久し振り笑った気がする。
そしてワインは、確かに極上だった。

 


「あの女に、その礼を言い忘れたなと思ってな。」
「へぇ〜あいつそんな可愛らしい性格してたんだ…何か俺としては複雑なんだけどな。」
ウソップが苦笑いする。
「そっか、ウソップはあの子と戦ったって言ってたもんなぁ。」
チョッパーが言うと、ウソップは長い鼻を高くして武勇伝を語りだした。


「むーーー。」
らしくない、眉間の皺。
機嫌悪い?
なんで、俺なんかしたか?!
「どうした、ルフィ。」
ギッと向けられる視線。
「俺は別にっ!ゾロの誕生日は俺が祝いたかったとかそんなこと思ってなんかねぇからなっ!!」
「…はぁ?」


ブフッとウソップが吹き出した。
「そうかそうか!ルフィは祝いたかったんだな、ゾロの20歳の誕生日を!!」
ガハハと腹を抱えて笑う。
チョッパーは俺と同じく訳が分からず唖然としている。
「ルフィ、お前って相変わらずだなぁ、俺達に対する独占欲!ことゾロに関しては尚更だ!」
笑うウソップに真っ赤になるルフィ。
「ちっ違うっ!!んなんじゃねぇ!!!」
「違うのか?」
唖然としたままの俺とチョッパーを余所に二人は会話を続ける。


騒ぎを聞き付けたらしいコックがキッチンからやってきた。
「おいおい、なんの騒ぎだ?」
「おーサンジ!あ、そうだ!!ルフィいい考えがあるぞ!!サンジちょっと協力してくれ!!」
「はあ?」
「うっウソップ!俺はっっ違う!」
「まあいいから、ルフィちょっと来いって。」


嵐の如く三人が去り、残された俺とチョッパーは只唖然として。
「ゾロ…俺、よく分かんなかったんだけど。」
「…俺にもさっぱり分かんねぇ。」
頭をガシガシと掻き、欠伸を一つするとチョッパーはクスリと笑って、
「俺、ちょっと研究したいことあるから。」
と、中に入って行った。
気を遣わせたか、まあいいか…
さっきの騒ぎも気になるが、後で聞こう…眠い……

 

「ゾローー!!ゾローーー!!!」
耳元で叫ばれて飛び起きる。
「ルフィ!!んなデカい声耳元で出すな!!」
ルフィの顔を見ると、さっきと違って機嫌の良さそうな感じで。
ん?と思ってるとルフィがとんでもないことを言った。


「ゾロ!!誕生日おめでとーー!!」
「……はあぁ?!」


後ろから相変わらず爆笑中のウソップが現れ、コトの次第を説明する。
今日、俺の20歳の誕生日を祝って、明日(まあつまりは11月11日)21歳の祝いをする。
今日宴をすることで、ギリギリ20歳を祝えるって…
お前のいい考えって、それか?!


「別にっ!ゾロの誕生日が祝いたかった訳じゃねぇからなっ!!宴がしたいんだよ、俺はっ!!」
「…はあ…そうかよ。」
やっぱり爆笑するウソップ。
「21歳になるんだって?あんたってとんでもなく老け顔ね。」
「ほっとけよ!」
「ペローナって、あの可愛い少女のことなんだってな!!お前ほんとに修行してたのか?!!俺なんてなァ…」
「…お前ら祝う気あんのか…」
ロビンはシモツキ村のそんな習慣についてなにやら解説してるし、
フランキーはスーパーな習慣だとポージングしている。
チョッパーとブルックは嬉しそうに宴だ宴だと言っている。
何だか分かんねぇけど、なんかおかしくて。
あの時…ペローナと鷹の目が祝ってくれた20歳の誕生日より、ずっと嬉しくて。
「ルフィ、ありがとな。」
「だっだから俺はっっ!!……………おう…気にすんな。当然だ。」
ルフィはニッと笑った。


俺は帰って来たんだな、と改めて実感した。
そしてコックがルフィの頼みだから特別だと言って出したワインは、今まで口にしたどんなワインよりも美味くて極上の味がした。



 


 

大変遅くなりましたが、2010ゾロ誕SSです。
やっとです、やっと書けました〜!
もう無理かなってかなり諦めかけてましたよ。
そしたら「ツンデレルフィって、どんなの?」って妄想がスタートして、ひかるこさんにも読みたいなぁと言われ、
やっと本腰入れて書けたというかなり難産ものです。
それにしては・・・どうなんだこれ(苦笑)
まあ・・・ゾロスキーなSSってことで、ご容赦くださいww

遅くなったけど、
ゾロ、誕生日おめでとーーーーー!!


2010.11.23


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