『桜、桜』

 


桜、桜。
パッと咲いて、サッと散る。
こんなにも儚いのに、こんなにも心奪われるものなど、他に存在するだろうか。
余りの見事さに、人知の及ばない何かを感じてしまうのも無理もない話だろう。
そして、本当に、何かが…そこに『ある』のかも…。

 

「え?!それホントに?!」
「ああ、あるぜ。緑色の桜。」
旅から帰ってきたエースが、山の奥で緑色の桜を見たと言った。
まさかと思って、物知りなシャンクスに聞いてみたら、あると言われた。
それはそれは、美しい、と。
だが、そこには『もののけ』もいると。
でも見たい。
見てみたい。
その衝動は抑え切れなくて。

俺は村の連中に内緒で、その場所へと向かった。
ホントに奥深い山の中。
歩き続けて、ホントにあんのかよ、と思い始めた時。
ほんの少し、開けた場所へ出た。
一息付いて、見上げると。

「あ…うわぁ…」

そこにあったのは。
ほんのり緑がかった桜が、それは見事に咲き誇っていた。
息を飲む。
言葉が出てこない。
美しく、妖艶とも言えるその姿に吸い寄せられるように近付く。
幹に触れ、幹を抱き、頬擦りをする。
ああ、俺、ここから離れたくねぇ…。

散々山を歩いて来た俺は、疲労と満足感で、そのまま眠ってしまった。




 

「死にてぇのか、コイツは。」
桜は、年に一度だけこうして花を咲かせる。
それはその花を見て、心を奪われる人間の精気をほんの少し得て、一年分の糧としているからだ。
こんな山奥でも何人かは通るので、俺は生き長らえ、こうしてここに存在する。
だが、稀にコイツのように俺に触れ、陶酔してしまうヤツがいる。
俺自身、人間の精気が不足している状態なので、その人間の命ごと吸い尽くしてしまうのだ。
こればかりはどうしようもなく、俺には止められない。
だからこうして姿を見せ、その人間を起こしてやるんだが…大概の人間は、転がるように帰って行く。
人間は、自分達以外の存在を認めないからだ。
もうそれにも慣れたがな。

「おい、お前。んなことしてたら死んじまうぞ。」
「ん…ああ…?」

目を開いた少年。
俺を見て、しばらく呆然とした様子だった。
いつもと同じような反応。
さあ、早くここから離れろ。
でなきゃ死んじまう。

「お前、なんだ?」
「あ?」
「お前、綺麗だな。お前がこの桜のもののけなのか?」
「…ああ。」
少年の目が輝く。
「俺、お前に会ってみたかったんだ!」
そう言って、俺に抱きつく。
「お、お前!止めろっ!」
でないと…。

飛び付いた少年は、すぐに力なくズルズルと倒れ込んだ。
赤味を帯びた頬の色が、徐々に色を失っていく。


ああ、また…。
俺のせいで人間が死ぬ。
俺の存在を認めてくれた初めての人間の命さえも、俺は奪ってしまう。
でないと、俺は生きてはいけないから。
それならば、いっそ…。



 

目を覚ますと、木の傍で寝転がっていた。
「ああ!?」
辺り一面、桜の花びら。
桜は散っていた。
一枚の花びらも残っていない。
何が、あった?
「あ、桜のヤツは?!」
見回しても姿がない。
「夢…?」
とても美しい、緑色の髪をした『もののけ』。
涼やかな目も、通った鼻筋も、今まで見たことのない異世界の『それ』は、俺の心を捕えて離さなかった。
桜を抱き締める。
もう一度、もう一度だけ。
お願いだから、姿を見せて…!


『…俺はしばらく眠る。来年、また会おう…』


「桜?!」


それ以上、桜は何も答えなかった。
「来年…また、来年…。」
うん、約束した。
「俺、ルフィ!来年また会おうな!約束だかんな!!」

風で枝が揺れ、返事をしているかのようだった。
桜、来年、また会おう。
そん時は、名前、教えてくれよな。



 

桜、桜。
パッと咲いて、サッと散る。
こんなにも儚いのに、こんなにも心奪われるものなど、他に存在するだろうか。

そして貴方もまた、桜の糧となる。

 



 



緑色の桜、御衣黄(ぎょいこう)ですね。
昨日花見に行ったんですよ。
そこに御衣黄がありまして、咲くのはもう少し先なので花は見れませんでしたが、
「御衣黄って・・・緑・・・」
さあ、妄想モード突入(笑)
ほとんど一気に書き上げました。
ゾロルっぽくないですが、ゾロルと言い張ろう。

 

  NOVEL TOP