『 仲間がいる 』


手が届いていたのに、
兄は、
エースは、
おれのその手を擦り抜けるようにいなくなってしまった。


何度も同じ夢を見る。
あの日の夢。
仲間と合流してもう随分経つと言うのに、あの時の無力感はなかなか消え去らない。
はあ…またか。
この夢を見た後は、しばらく動きたくなくなるし呼吸も乱れる。
おれは深くゆっくり呼吸をし、
手を何度も何度も握ったり開いたりして、感覚が戻るのを待った。


「ルフィ、どうした。」
ふいに声がして、おれは目を開けた。
声を掛けて来たのはゾロだった。
アクアリウムのソファーの上で、おれはうたた寝をしていたようだ。
アクアリウムにはおれとゾロだけで、甲板からウソップとチョッパー、フランキーの笑い声が聞こえていた。
ゾロはジッとおれの顔を見てから、ドカッと隣に座った。


「ここで昼寝も悪くねぇな。」


ニヤリと笑って手を頭の後ろで組み、それから目を閉じるゾロ。
どうしたって言っといて、そこに触れないのはゾロらしくて、黙って離れず居てくれるのもゾロらしい。
自然に笑みがこぼれる。


「それがいいな。」
「ん?」
「お前は、笑ってる方がいい。」


目を閉じてるくせに、何で分かるんだろう。
そう思うと、またおかしくなって笑った。
気が付けば、呼吸も感覚も戻ってきていた。
そうだな、ゾロ、お前がいる。
おれにはお前らがいる。


「大丈夫そうだな。」
「んん?」
「何でもねぇよ。」


ゾロは立ち上がると、クイッと顎をドアに向けた。
「やつら、待ってるぜ。」
「待ってる?」
「行きゃ分かる。」
おれは首をかしげながらドアを開けた。


「おぅ!やっと来やがったな!」
「遅ぇーぞ、ゾロ!呼びに行くのに何分掛けてんだ!」
「一緒に寝てたりしてナ!エッエッエッ!」
「ったく。ミイラ捕りがミイラになってんじゃないわよー?!サンジくんの料理が冷めちゃうじゃない!」
「全く、ナミさんの言う通りだ!ま、俺の料理は完璧だから問題ねぇがな。」
「でもちゃんとルフィに悟られずに連れてきたみたいよ?」
「ヨホホホッ、そうです、こういったことはサプライズがセオリーですから。」


あ…
振り向くと、ゾロが笑っていた。
「な、待ってただろ?」
軽くウインクされて驚いて、それからまたおかしくなって笑って。
甲板に向き直るとみんなが嬉しそうに笑ってる。

 

『ルフィ、誕生日おめでとう!!』

 

仲間がいる。
そう、おれには護るべき仲間が。
共に夢を追う仲間が。


「よ〜し!宴だ宴だーー!呑むぞーー!!」
『おー!!』
「行くぞ、ゾロ!」
「お、おいっ!」


おれはゾロの腕を掴むと、皆に向かって飛び込んだ。

 


2013.05.14


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船長誕SS。
ルフィの心の傷は、そんな簡単なものじゃないと思うんだよね。
だけど、仲間がいるから、だからルフィは笑顔でいられる。
そんな気がしています。

少し前に書き上がっていたのですが、ホントなかなかパソコンに向かえない日々。
遅くなってごめんよ、船長!!


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