『冷たい雨』

 

 

別れたはずなのに、俺だけ今でもアイツに捕われている。
忘れたはずの感情が、あの日を境に蘇ってきた、そんな感じだ。

なぜ。
あの日出会ったしまったんだろう。
出会わなければ、こんな風にウソップを想うことはなかっただろうに。
毎晩、どうしようもない位の切なさと喪失感に襲われ、毎朝、それを振り切るために仕事に向かう。
仕事をしている間だけ、ウソップを忘れることが出来たのは、俺にとって唯一の救いだった。


そんな毎日を送り、体重も幾らか減った頃。
仕事で新しいプロジェクトを立ち上げることになり、その取引先の営業と会うことになった。
「サンジです。よろしくお願いします。」
聞き覚えのある名前。
その…金色の髪。
あの時、ウソップと…。

「ロロノア…ゾロ…です。」
途端。
顔を上げて、俺の顔を凝視する『サンジ』。
「ロロノア…ゾロ…さん。」
「よろしく、お願いします。」

サンジは、それ以上は何も言わなかった。
今後の予定だけ打ち合わせをし、
「では、よろしくお願いします、ロロノアさん。」
と、笑顔を見せた。


「なあに?知り合い?」
同期入社のナミは、仕事も人使いも一流で、あっという間に主任になった。
「いえ…初対面です。」
「二人の時は敬語止めなさいよね。」
「仕事中。」
「相変わらず頭硬いわね〜。」
そして俺の顔を覗き込む。
「初対面、にしては、随分とお互いに『知ってます』って顔だったわよ?」
「初対面です。」
「分かったわよっ。もう、頑固なんだから。」

悪い、ナミ。
それ以上は聞かれても答えようがないんだ。

プロジェクトの準備やらで暫くは忙しくなりそうだ。
今日は少し早目に仕事を切り上げておこう。
眠れなくても身体は休めておかないと、いくら体力に自信はあってももたなくなる。
今日出会ったサンジのことを思い出し、これからアイツと顔を合わせるようになるのかと思うと、
それも気がかりだった。
そんな考えを廻らせながら会社を出た。

「ゾロ!」
この声。
聞きたくてしょうがなかった声。
幻聴なのだろうか。
「ゾロだろ?!」
振り向く。
「…ウソップ。」
会いたくて、会いたくて。
その身体の温度を感じたくて。
欲して止まないウソップ。

「な…んで?」

「捜したんだ、ゾロのこと。ずっと捜してたんだ。」
今にも泣き出しそうな顔をしたウソップがそこにいた。
幻覚でも、幻聴でもない。

「ゾロ。俺、ずっと謝りたくて。あの時のこと。」
「あの時…。」

ウソップの表情が曇る。
「あの頃の俺は…自分に全然自信なくて。
 俺にはゾロしかなくても、ゾロには俺じゃないじゃないかって…。」
そんな…あんなに一緒にいたのに全く気がつかなかった。
「繋いでた手を離しちまったのは俺なのに、その手がゾロを求めてて…
 よく考えてみたら、ゾロの気持ちも聞かないで俺なんて勝手だったんだろうって気がついたんだ。」

うつ向いていたウソップが、俺の顔を見た。
「会いたくて、会いたくて。ゾロの声聞きたくて。そんな資格、俺にはないのに…」

ポロポロと、ウソップの目から涙が溢れた。
「あの後しばらくしてゾロんち行ったけど引っ越してて、携帯も繋がらなくなってて。
 職場まで変わってたから…俺あちこち捜したんだ。友達のサンジと。
 そしたらサンジがさっきゾロ見つけたって連絡が…」

ウソップを、抱きしめた。
足りなかった何か、愛しい者の存在、欠けていた部分。

「ゾロ…」
「…もう、離さねぇ。」
「うん…うん…ごめん、ゾロ。」
「謝るな。お前が離しちまった手を、繋ぎ止めなかったのは俺だ。」


俺の心に降り続けていた冷たい雨は、ようやく晴れようとしていた。
そして見上げた空は、何処までも高く、大きく広がって見えた。

 

 


 

「冷たい雨」の続きです。
ああ結局ハピエンにしちゃったよ。
だって・・・ゾロはいつも幸せであって欲しいから。
いつもいつも、想う人と一緒にいて欲しいから。
・・・私、ゾロ好きだな・・・やっぱり。

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