『 守れない約束 』



孤児だった。
コウシロウ先生が俺の後見人になってくれるまでは、孤児院にいた。
親のことはよく分からない。
二人とも亡くなったと聞いている。
朧気な記憶しかねぇから、歳を重ねるごとに思い出すこともしなくなった。
それでも、
寂しいとか不幸だと思ったことはなかった。
感情が欠落していた。
今思えばだが。
喜怒哀楽の全てをどこかに置いてきてしまっているようだったよ、と先生は言っていた。
後見人になってくれたのは、そんな俺を見るに見兼ねてのことだったらしい。


くいなは弟が出来たと言って、俺をあちこちつれ回した。
「ほら、笑って笑って!」といつも一生懸命だった。
最初に剣術を教えてくれたのもくいなだ。
たくさんの門下生の中でくいなは群を抜く強さだった。
そして孤児である俺を虐めるヤツがいると、容赦なくその腕を振るった。
「俺のことは放っておいてくれ。」
そう言った俺に、くいなは烈火の如く怒った。
「身内を放っておける訳ないでしょ!ゾロは私の弟なんだから!!」
目に涙を一杯ためて、走り去ったくいなの後ろ姿を見た時、俺の中で何かが変わった。


真面目に剣術を学ぶようになった。
少しずつ、他の門下生と接するようになった。
強くなりたいと思うようになった。
くいなに勝ちたいと。
くいなの背中を追い掛け、いつか追い抜く日を目指した。
歯が立たなくて二刀流に挑戦した。
でも勝てない、届かない。
刀が多ければいいってもんじゃないと、くいなは笑っていた。


「ゾロの誕生日って11月11日なのね。」
「うん、それがどうかした?」
フフフッて笑って、
「ゾロらしい誕生日。まるで竹刀を振り回してるゾロみたいな日ね。」
と言った。
んー?何だよそれ、とは思ったけれど、
「ゾロが楽しそうな誕生日よね!」
くいなが楽しそうだから、それでいいって思った。


競い合う事を誓ったあの夜。
楽しみでワクワクして、明け方まで眠れなかった。
なのに…
明くる朝、受けたショックも絶望も、
どう表現したらいいのか分からないほどに大きなものだった。
親もいない。
くいな、お前までいなくなるのか。
くいなとの約束は、
俺を支える全てになった。


 

 

「ゾローーー!!」
「っうがぁっ!!何すんだ、ルフィ!!飛び付くなって、あれほど言っただろうが!!」
ルフィが飛び付くと、ぐるぐる巻きにされて相当締め付けられる。
身体もぶっ飛びそうだ。
「生身の人間なら、即死ね。」
笑いながら言うな、ロビン。
それに俺は生身の人間だ。
言い返そうとした俺の目の前に、ニュッとルフィが顔を出した。
少々面食らっていたら、真面目な顔をしたルフィが言った。


「俺はいなくならねぇから。」
「…はぁ?…何だよ、それは。」
「分かんねぇ。でも今言いたいって思った。」
こいつ…まるで俺の心を見透かしているかのような。
前からそうだと思っていた。
ここぞと言う時、何も言わなくても俺を分かっているルフィ。
「また…喧嘩してぇな!!」
そう言って、シシシと笑うルフィに、心底叶わねぇと思う。


なあ、くいな。
お前に詫びたいことがある。
約束、守れねぇ。
今、俺が守りてぇ約束は、目の前にいる未来の海賊王との約束だ。
ルフィとの約束なんだ。
『俺はもう負けねぇ!!』
負けなくなるまで、誰より強くなるまで。
俺は終われねぇんだ。

 

「おい、お前ら油売ってねぇで手伝え。宴すんだろ。」
「俺は主賓だろうが。」
「やかましい。マリモの分際でしてもらえるだけで有り難いと思え。」
ルフィが宴だ宴だと走り出す。
その背中を見つめながら、いつか見た背中に重ねた。
「ゾロー!早く来いよ!」
振り返り、手をブンブン振るルフィを見て、
何故だか無性に笑いたくなった。
今、一緒にいるのがルフィで良かったと思う。
他の奴なんて、マジで有えねぇ。

 

くいな、俺は笑顔でいるよ。





2012.12.02



拍手する     

 



はいはい、とっくにゾロ月間は終了してます、分かってますよーー(涙)
ネタ自体はずいぶん前からあったんですが、なかなか文章が進まなくて。
11月30日に必死で書いてたんですが、全然間に合わなくて寝落ちしてました(号泣)

ゾロは約束を絶対に破らない、とは言い難いじゃないですか。
思いっきり負けてるよ、どうすんのよーーってくらいに。
絶対に負けなくなるまで、俺はやるから、それで文句ねぇだろって感じなのかなぁって
勝手に思ってます。
それでいいだろ!(笑)

2012ゾロ誕SSでした!
読んでくれた人、ありがとうね!!


NOVEL TOP