『告白と決意』

 

 

穏やかな波の夜、久し振りに不寝番となったゾロは、一人見張り部屋にいた。
あの日、スリラーバークで瀕死の重症を負い、チョッパーから絶対安静を告げられたため、しばらくの間は免除されていたのだ。
だが、ゾロにとって不寝番は、ゆっくり酒を楽しむ唯一の時間なのだ。
ゾロはようやく訪れたこの時間を十分に味わっていた。
決して、仲間といることが苦痛なわけではない。
ただ、ゾロ自身、一人でいることが長かったから、ふと一人になりたいと思う…それだけだった。

「…誰だ?」
気配がある。
チョッパーか?まずいな、まだ酒の許可は出ていない。
見つかったら何かと面倒だ。
思案にくれるゾロの前に現れたのは、全く想像もしていなかった人物だった。
「さすがね。見つからない自信はあったんだけど。」微笑む…ニコ・ロビン。
「お前…なんか用か?」
「あら、随分ね。用がなくちゃいけないかしら?」
フフフ、とロビンは笑った。

エニエス・ロビーの一件以来、よく笑うようになったな…とその笑顔を見ながらゾロは思った。
「用もねぇのにお前が俺に話かけてくる方が変だろうが」
普段からルフィにあれだけくっついて、他のクルーには目もくれない(アホコックなんざいつも撃沈だし)ロビンだ。
何か裏があると思うのが自然だろう。
「手厳しいわね」
そう微笑むロビンは…アホコックでなくても見惚れてしまうほど美しい。

「聞きたい…ことがあるの」
「聞きたいこと?俺にか?」
ロビンはうなずき、少し間を置いて
「どうして…命を賭けて、剣を捨ててまで、ルフィを生かそうとしたの?」
「!!」
ゾロの表情が険しくなる。
何故ロビンがそのことを知っているんだ…?
「…コックから聞いたのか…」
「いいえ、違うわ。」
表情を変えないロビン。
「じゃあなんで…」
答える変わりに、ゾロの目の前の酒のコップから突然目が現れた。
「おわっ!…そ、そういうことか…」
こいつには隠し事なんて無意味だってことか…

しばらく沈黙が続き…ゾロは意を決したかのように話始めた。

「何故、と聞かれれば、正直よく分からねぇ。」
「分からない?」
「ああ」
ゾロは大きくため息をついた。
「何故ルフィのために、一味のために、己の野望や命まで投げ捨てようとしたのか。」
ロビンは静かにゾロを見つめていた。

「俺は、俺の野望のために海賊になった。
 世界一の大剣豪。
 親友との約束だ。
 何としてでも何が何でもなる。
 それが例え『悪名』だったとしてもだ。」

ゾロは不思議な感覚だった。
何故、ロビンにこんな話をしてるんだろう…いつもみたいに適当にはぐらかせばいいものを…そう思いつつも話し続けた。
「だが、『世界一の大剣豪』は強ければそうなのか?
 仲間を守ることも出来ず、自分可愛さに仲間を売るようなことをして手に入れた強さは、本当に世界一のものなのか?
 ましてや、俺が唯一俺の上に立つことを許した『モンキー・D・ルフィ』を失ってまでだ。」

そこまで一気に話すと、ゾロはなんだかすっきりとした気分になった。
コップの酒を呑み干して、大きく息を吐いた。
「ルフィを…失いたくなかったのね。」
「…ああ、そうだな。」
酔いが回ったのか、いつもとは裏腹な物言いの自分にゾロは少し驚いた。
が、それも悪くないと自然に笑みがこぼれる。
ロビンは静かに微笑んでいる。

ふと、テーブルから手が出てきて酌をしてくれた。
この能力は何度見ても慣れねぇなぁ…そんなことを思いながら、少しだけロビンに感謝した。

海賊王になる男、モンキー・D・ルフィ。
『俺はやつを海賊王にする。』



 



485話って、すごく波紋のあった話だったけど、あれがゾロの真髄なのかも。
「剣で守れないなら、守れる手段を選ぶ」ってのがすごくゾロらしいと思います。

 

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