『柑橘系』

 

 

「ルフィ、話がある。」

「やだ。今忙しい。」

 

この会話を、何度繰り返したことだろう。

 

「聞けったら。」

「絶対聞かねぇ。」

 

この会話も。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

俺とゾロが出会ったのは大学の食堂だった。

数量限定人気のAランチ。

最後の一つを同時に注文したのが最初だった。

あの後、大喧嘩になりそうだったのをウソップが止めに入り、ナミがAランチを食べたのだった。

初めは、無愛想で、無口でつまんねぇヤツと思った。

でも、ホントは照れ屋で、意外と人情に厚くて、優しくて。

笑うと見惚れてしまうほどだということにも気が付いた。

ゾロが俺をどう思っていたかは分からねぇが、とにかく、一緒にいることが多くなった。

何をする時も、一度はゾロを誘う。

ゾロもそうだった。

 

 

お互いの家にもよく遊びに行った。

俺は地元だから家族と住んでいたけど、ゾロはアパートに住んでいた。

一人暮らしに憧れていた俺は、頻繁に遊びに行くようになった。

そんな時、事件は起こった。

 

 

いつものように遊びに行き、ご飯を食べた後、少しだけ、アルコールを呑む。

普段はそれほど呑まないけど、話が盛り上がるうちに知らず知らず呑みすぎていたらしい。

「おい、ルフィ。大丈夫か?」

「んー…やばい。」

お姫様抱っこw

「少し横になっとけ。」

ゾロはそう言うと俺を抱きかかえてソファに寝かせてくれた。

「わりぃな…。」

「構わねぇよ。」

カッコ悪いな、俺、とため息をついた。

冷蔵庫からオレンジジュースを持って来てくれたゾロが、

「これ、飲んだ方が楽になるんだけど、起きれるか?」

と、俺の顔を覗き込んだ。

「うー…気持ち悪い…。」

ゾロは何も言わなかった。

何かを言う代わりに。                                                                                                              harukiさん画

                                                                                                                             

何かが唇に触れて、口の中に冷たい柑橘系の味が広がった。

驚いて目を開けると、そこにあったのはゾロの顔で、唇に触れていたのはゾロの唇で。

パニックだった。

「ななっ、なにすんだよっ!…」

「おい、ちょっと待て、落ち着けって…」

暴れる俺の肩を押さえる。

「んな急に動くと酔いが回るぞ!」

指摘通り。

その直後、俺の意識は飛んだ。

 

 

目が覚めると、俺は自分の部屋にいた。

あれ?

起き上がると、猛烈な頭痛がした。

「夢じゃない…よな?」

酷い二日酔いだった。

エースが言うには、ゾロがおぶってここまで連れてきたらしい。

ここまで?

歩いて?

歩けば片道30分はかかる。

それをおぶって?

ちゃんと礼言っとけよ、とエースに言われて、携帯を手に取る。

だけど。

夕べのことを思い出すと、なんか電話出来なかった。

なんか、なんか。

凄く凄く、ドキドキしたんだよ。

ゾロはそんなつもりじゃなくて、俺にジュース飲ませたかっただけかもしんねぇけど、キス、だぞ?

キスしたんだぞ?

これをどう気持ちの中で処理したらいいのか分からないんだよ、俺不器用だから。

そんなことで、電話出来なかった。

 

 

それから。

どうしても、どうしても、ゾロの顔を見ることが出来ない。

大学で見かけても避けてしまったし、自分からゾロを探したりするようなこともなかった。

 

「なんだお前ら喧嘩したのか?」

ウソップが笑う。

「いいんじゃない、たまには。」

ナミも笑う。

 

そしてゾロが俺を追いかける回して、

「聞けったら!」

「絶対聞かねぇ!」

を繰り返すことになる。

 

 

こんな不毛な会話を続けること一週間。

ついにゾロが行動に出た。

 

帰り道。

ウソップと校門を出たすぐのところで、待ち伏せしていた。

顔が…怖い。

「ウソップ、ルフィ借りるぞ。」

「ハイハイ、どうぞ〜!」

「はやっ!早すぎるだろう!!」

「だって怖い…じゃなくて、お前らちゃんと仲直りしろよ。」

 

抵抗することも許されるない雰囲気で、俺はゾロのアパートへ行くことになった。

部屋に入るなり、ゾロはいつもの台詞を言った。

「だから、話を聞けよ。」

「…」

「悪かったよ、お前があんまり気分が悪そうだったから…そんな深い意味に取るなよ。」

「そんなん、ヤダ!!」

「はぁ?!」

あの日からずっと、胸につかえていた。

俺とゾロ。

ゾロと俺。

二人の関係。

それが分かっているからこそ、あの行為に深い意味がないことくらい分かっていた。

だから、だからこそゾロを見るのが辛かった。

自分の気持ちに気付いたから。

「お前何言ってんだ?訳分かんねぇけど…」

「だからっ!あのキスに意味がないなんてヤダっつってんだよ!!」

ゾロの目が、点、になった。

言った。

言っちまった。

顔から火が吹き出そうだった。

早くこの場から逃げだしたかった。

 

 

「ったく、マジかよ…」

ゾロが言う。

顔を上げると、頭を掻きながら真っ赤な顔したゾロが俺を見ていた。

「じゃあ我慢する必要なんてなかったんだな。」

「へ?」

ゾロが俺を引き寄せて抱きしめた。

「どんだけ我慢してたと思ってるんだ。」

耳元で囁く。

「知らねぇよ、んなこと。」

戸惑いながらも、嬉しさは隠せない。

 

それから、どちらからともなく、唇を寄せた。

あの時の、柑橘系の味はしなかったけれど、もっともっと、甘酸っぱい味がした。

 

 

 

 


 

harukiさんへのプレゼント第2弾です。

「帽子」書いてはみたものの、なんかイマイチかな・・・・と思ってリベンジしたものです。
予想以上にharukiさんに気に入っていただいたようで?嬉しかったですw
ゾロルパラレルって難しいなぁ・・・なんでだろ?

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