『独り言』



「こうしてナミさんとデート出来るなんて夢みたいです!」
「…買い出しに付き合ってるだけじゃない。」
「それでもですよ、ナミさん。」
超ご機嫌なサンジくん。
買い出しに付き合う事になった経緯は、1週間前に遡る。

 

「サンジってさ〜、いっつも自分の誕生日のためにご馳走作ったりすんだよなぁ。」
何気ない、ウソップの一言に皆の動きが止まった。
「そりゃあ…サンジくんの作る料理が一番美味しいし…」
「うん!俺はサンジのメシがいい!!」
「あんなに美味しい料理を口にしたのは初めてでしたよ!」
「それしか取り得ねぇんだからいいんじゃねぇか?」
「まあ俺達が作ったところでそう美味くは出来ねぇからな。」
「俺は…出来ねぇし、料理。」
「つまり、彼しかあれだけのご馳走は作れないってことね。」


「だからさ、」
皆の答えを受けて、ウソップが続ける。
「いつものプレゼントじゃなくて、サンジがもっと嬉しいことしてみねぇか?」
「「「「「「「??」」」」」」」
にんまりと笑うウソップに皆が顔を見合わせた。
「サンジが一番好きなのって、何だ?」
「女!」
間髪入れずにルフィが答えた。
「ビンゴだ、ルフィ。」
そうして、ウソップは私に視線を移した。
「え?」
「ナミ、サンジとデートしてやったら?」
「なっ!なんであたしがっ?!」
「そうだな、サンジが一番喜びそうだ!」
「違げぇねぇな。」
「だろ?!」
「サンジはナミが好きだからなぁ〜!」
私の思いとは裏腹なみんなの言葉に私は焦った。
「待ってよ!女って言うならロビンだって同じでしょ?!」
「あら、ナミちゃん違うわよ?」
にっこりと微笑むロビン。
「彼が一番好きなのはナミちゃんよ?」
「だな。おめぇになんかあると何かに変身しそうだもんな。」
「美しき愛、よろしいですね!ヨホホホ!」


とどめの一言。
「ナミ、サンジとデートしてやってくれ!」


みんなにあんなに言われて、ルフィにまであんな風に言うから断れないじゃない。
でも普通にデートって…今更恥ずかしくて出来ないし。
買い出しに付き合う事ってことならいいかな…という苦肉の策。
なのにサンジくんの喜びようったらなかった。


「ナミさん、疲れたでしょう?ちょっと休憩しましょう。」
サンジくんが選んだお店はちょっとおしゃれなカフェテラス。
こんなとこも卒がない。
身のこなしから、女性に対する接し方。
どこでこんなの身に付けたのかしら。
あの海上レストランにそんな感じの人いた?


「サンジくん。」
「何ですか?ナミさん。」
優雅な笑みにドキッとしたけど、そんな素振りは絶対に見せない。
「サンジくんに料理を教えてくれた人は、その身のこなしも教えてくれたの?」
「え?」
笑みが固まり、動きが止まる。
「………。」
「あれ?あたし、変なこと聞いちゃった?」
サンジくんの様子が一変したので、ちょっと焦る。
いつものサンジくんじゃないみたい。


「…くそジジィは…何も教えちゃくれませんでしたよ。」
「え?」
「必要なことは、全部自分で覚えました。料理は見よう見まねで必死で覚えましたね。味は盗みました。」
「…サンジくん…」
いつもより声を低くして、表情が見えないようにしたいのか、サンジくんは顔を伏せた。
「何ひとつ、くそジジィは教えちゃくれませんでしたよ。でも…」
サンジくんの笑みに、息を飲む。
笑っているのに、寂しげで、切なげで。
「…そうですね、一番大切なことは教わった気がしますよ。」
ついっと空に目をやると、今度は独り言のように呟いた。
「あの味には、なかなか届かねぇな。」
サンジくんはそれ以上何も言わなかった。


私は決心していた。
今は無理だけど、いつか…そうねルフィが海賊王になったその年のバースデーに。
帰ったらルフィに話そう。
みんなに話そう。


「サンジくんが一番嬉しいこと、分かったわよ!」


 



やっとこさ、今更ですがサン誕SSを書き上げました。
これはですね、これだけ読むと「で?どうなったの?」ってなるかもしれません。
ナミさんが何を思いついたか、想像してみるのも楽しいかもね。
実はこれ、いつもお世話になってる水城ひかるこさんとこのSSから始まっています。
そして、私がプレゼントしたSSもそちらでアップされています。
その三つを読むと、ああ納得、ってなると思います。
是非読んでみて下さいね。

 「一本の槍」(水城ひかるこさん作)
 「絆」(サマンサ作)

サンジくん、誕生日おめでとう!


2010.03.07

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