『 だから笑う 』



「あれ、ルフィは?」
「ああ、ルフィなら多分いつもんとこ。」


新年の宴の最中、
騒ぎ頭のルフィが姿を消した。
いつものとこ。
サニーのとこ。
サニーの、頭の上。


「あいつ酔ってあんなとこに行って、落ちでもしたらどうすんだ。」
海に落ちたら、それこそ命がねぇっつうのに。
みんな酔ってて、今海に落ちられてもたまんねぇって。
酒に呑まれるような呑み方はしてねぇが(そもそも呑まれた経験がねぇ)サポートしてくれるヤツがいねぇと色々大変だ。
馬鹿が、落ちてんじゃねぇぞ。
そう思いながら急ぎ、サニーの元へと走る。


ルフィは、サニーの上で海をジッと見つめていた。
姿を見てとりあえず安心する。
だがその背中は、声を掛けるのも憚られるくらいに、何と言うか、泣いているかのような、そんな気がした。
…まあ、落ちてなきゃ問題はねぇんだが…
それでも、これから落ちねぇ補償はどこにもねぇ。
多少躊躇はしたが、俺は声を掛けた。


「おい、ルフィ。」
「んー?ああ、ゾロか。」
向けられた表情は月の光で見えなかったが、その声は穏やかで微笑んでいるような気がした。
さっき後ろ姿に感じた気配は気のせいだったか?
「んなとこ呑んでから行くんじゃねぇ。落ちたらどうすんだ。」
「ゾロがいるじゃん。」
「簡単に言うな。」
豪快な笑い声がして、ルフィはサニーの頭からこちらに移動してきた。


「今日な、エースの誕生日なんだ。」
「エース?って、兄貴か。」
そう、と言って夜空を仰ぎ見る。
「なーんかな、いつもエースの誕生日なんか気にしたことねぇのに。すげぇ不思議な感じ。」
ルフィの目の前で、エースは命を落とした。
助けることが出来なかったルフィは、暫く泣き叫んで自分を傷付けていたと後でジンベエに聞いた。
そりゃあ、そう簡単に割り切れるような話じゃねぇよな。
俺もくいなが死んだ時は、割り切るのにそれなりに時間が掛かった。


「俺はな、難しいことは分かんねぇ。」
「…うん。」
「だけどな、死んだ奴のこと、そうやってたまに思い出してやるのは『供養』になるらしい。」
「供養?」


村を出る時、コウシロウ先生に言われた。
くいなを忘れないで、
時々でいいから思い出して欲しい、と。
それがくいなの供養になるんだと。


「だから、思い出しゃいいんだよ、兄貴のこと。」
しんどくてもしんどくても、死は変更することが出来ねぇ。
だからこそ、真っ直ぐに受け入れることが供養でもあり、自分の糧にもなる。


「そうか、いいのか。」
「おう。」


フッとルフィが笑ったのが分かった。
それから
シシシと笑い出した。
「供養だな!」
「おう、供養だ!」
二人で豪快に笑い出す。
他の連中も何だ何だとやって来たが、ルフィは何でもねぇよ!宴の続きだ!と祝宴に戻った。


俺はその場に残り、月見酒を楽しんだ。
くいなの死は確かにしんどかったが、俺を世界へと導いた。


エース、あんたの弟は、
きっと、もっと、強くなる。

 



2013.01.18


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新年ってことで書いてみました。
妄想段階では結構がっつりBLって感じだったんですが、
出来上がってみたらすごく普通に・・・健全もの?w
何故でしょう。
私が根性なしってことなんでしょうね!

思い出すことは供養になるって話は、実家が檀家になってるお寺の住職がいつも言ってること。
もちろん未練がましく思い出すのはダメなんでしょうけども。
ルフィはきっと、後悔はしてないんじゃないかなって思うんだ。
それを理解して、支えてくれるのはゾロなのかなって。

なにはともあれ!今年もよろしくね!!


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