「 前途多難 」



「は、ない、くん。おは、よ!」
「お〜三橋。おはよっす。早ぇじゃん。」


えへへ、と笑い、嬉しそうに俺の目の前に何かを差し出した。
「え?何?」
「昨日、買った。阿部、くんと。スパイク。」
ああ…昨日の…あれね。
昨日、たまたま遭遇した出来事を思い出してちょっと苦笑いする。
あの邪魔すんなって強烈な視線をくれた阿部の気持ちは、恐らく花井が想像した通りだろうから。


(あの阿部がねぇ…しかもあんな分かりやすい…)
思い出しても背筋が凍り付くような、そんな視線。
仮にもチームメイトだぞ。
ちと凹むじゃんか。
呆れるやら感心するやら。


三橋は気が付いてんのか…
当の三橋は、嬉しそうにスパイクを出して何やら自分なりに説明してくれている。
…まあ、
いい傾向なのかな?
三橋は俺達に対して何を話したらいいのか分からないみたいで。
こんな風に話し掛けてくれることなんて珍しいことだから。


「お?三橋こんなの持ってたっけ?」
三橋の右手に、黒いリストバンドがあって。
あんまりこういった物を付けてる印象がなかったから。
「うん!昨日、買った!」
おおっ!?
驚くくらいハッキリと答えた三橋。
「なかなかいいじゃん。」
「え、そ、そう?!」
今日は朝からテンション高いなぁ…そう思っていたら…


「はよーす。」
「おお、阿部。はよっす。」
三橋も阿部に振り返り何かを言い掛けたその時、
阿部の表情がみるみる崩れた。
「三橋!そのスパイクは家でちょっと慣らしてから持って来いって言っただろう!」
「う、ああ…」
「ったく、靴擦れでもしたらどうすんだよ!」
「ご…めんなさ、い。」
今にも消えそうな三橋。
さっきの三橋はどこへ行ったんだ(苦笑)


「花井も、さっさと着替えて、やるぞ朝練。」
「あ…ああ。わりぃ。」
阿部の勢いに押されてぼんやりと二人を見ていたら…


(ん?)
阿部の右手。
(え…ええ?!)
三橋と同じ、黒いリストバンド。
あんなの、阿部だって今までしてなかった!!
阿部…それはいくらなんでもあれだろ…。
頭痛ぇ〜(泣)
それでバレないつもりか?阿部。
無理だと思うぞ〜。


「はよーっす。花井早いね〜」
「あ、はよっす、栄口。」
「何?変な顔して。なんかあった?」
これは俺だけでどうこう出来ねぇよな…
「栄口!」
「ななっ、何?!」


驚く栄口に事態を説明し、他のメンバーが来る前にリストバンドを外させて。
真っ赤になる阿部に、ハテナマークの三橋。
阿部、お前…前途多難なのな。
栄口と微妙な表情で顔を見合わせた。
この先、無自覚に好きだオーラを出す阿部をどうフォローするか…


練習メニューノートの他に、もう一冊ノートが出来そうだ。






◇ 「そうなのか」の続きです。
  うっかり続きを書いてしまいました。
  超天然な阿部が書きたかっただけかもしれませんw




2010.08.23



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