「 リアル 」
携帯が鳴る。
立て続けに鳴る。12月11日。
俺の誕生日になってすぐ。
チームメイトやクラスメイトからのおめでとうメールが届く。
水谷のメールは何だかチカチカしている、らしいメールで。
栄口のはシンプルだけど、優しい色のメールで。
決して野球部の全員がメールをくれている訳じゃない。
毎日の練習でくたくたになっているから、こんな時間に起きている方がビックリだ。
だからこそ、メールをしてきてくれるその行為は凄く嬉しかった。
でも……
「…来ねぇか……まぁ、そりゃそうだよな。」
独り言を言って携帯を閉じた。
来る訳ねぇよ。
分かってたよ、そんなん。
毎日のキツい練習。
それに加えて問題児の多いうちのチームの束ね役…キャプテンを務める。
真面目な奴だから、予習もちゃんとやって来るし、多分復習もしてるんだろう。
もしかしたら、練習メニューのことだって、なんか考えてんのかも。
そんな…
そんな花井が、こんな時間まで起きてて、俺におめでとうメールしてくるなんて考えにくい。
例え起きてても、そんな余裕、ねぇよな。
ふぅっと溜め息をしてからベッドに入った。
誕生日と言えど普通に朝練はあるし、学校だって、放課後の練習だっていつも通り。
花井にとってなんてことない一日に違いない。
そうだ、そうなんだ。
分かってるよな、俺…。
何でこんなに花井に固執してるのかよく分からない。
クラスメイトで、チームメイトで。
キャプテンと副キャプテンで。
そりゃバッテリーを組むこともあるし、キャッチャーのことで質問されたりもする。
だけど基本的にプライベートな接点はそれほどない。
部活中には三橋で手一杯な俺をいつもフォローしてくれる花井。
分かりやすいテンパり方をする花井。
強気なんだか弱気なんだか分かんねぇ花井。
なぁ花井。
俺、何だか訳分かんねぇよ。
どんなに悩んで寝不足気味でも朝は来るし、朝練にも行かなきゃならない。
朝練自体は何の苦にもならないが、何だか気分が乗らないのはぐだぐだと悩んだせいだろう。
自転車を漕ぐ足が重く感じた。
「阿部!」
不意に声がして、驚いて自転車を止める。
声がした方を見ると、見慣れた長身…
「…花井…?」
はよっす、と言いながら花井は俺の横に立った。
「おめでと。」
「え…は?」
花井は苦笑いする。
「誕生日なんだろ?今日は阿部の。」
「や…そうだけど、何でここに?」
何で、何でこんなとこに?
おめでとうを言いたければ学校でいいはず。
わざわざこんなとこに…うちの近くまで。
花井の家からうちに来ればかなりの大回りになる。
花井の目が大きく見開かれる。
まだ薄暗い道。
それでもよく分かるグレーの瞳。
「何で…何でだろ?」
トレードマークの坊主頭にニット帽。
その頭に手をやり、居心地が悪そうにデカい身体を小さくする。
いやメールしようと思ったけど、なんか顔見て言いたいなぁとかって、うぜぇ?
なんて、口ん中で言うなよ、お前。
「…何なんだよ、お前(笑)」
「いや…なんつうかな…(笑)」
お互い、声を殺してクックと笑う。
心地よい、空気。
花井の真意は分からねぇけど、どんなおめでとうより嬉しい。
誰かの歌で、何万通のメールより、たった一度のリアルが暖かいだかなんだかっつってたような。
確かに。
今はその歌詞の意味がよく分かる。
「まあ…とにかく、おめでとう!」
花井が赤い顔をして笑う。
「おう。サンキュ。」
俺もきっと、顔が赤い。
朝練に向かう足が軽くなった。
◇ 2010阿部誕SSです。未満な二人。
遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとう!!
2010.12.13
振り小説TOPへ