「 俺の最強 」


いつものミーティングの後、三人でキャプテン会議して。
その間、残りのメンバーはアップしたり筋トレしたりする。
最近は巣山や泉が俺達がいない時、他のやつの面倒を見てくれるようになったのはいい傾向だ。
こうしてきちんと三人揃って話が出来るからありがたいし、自主性が出て来たってことだもんな。


「…で、以上だな。これからは暖かくなってくるし、練習も更にハードになってくっから、その辺腹くくってかないとな。」
うんうんと頷く阿部。
栄口はうわぁと言うリアクションをした。
「覚悟してたけど、相当ハードだよね。」
んなもん当たり前だろと阿部が言うと、分かってるってーと栄口が苦笑いした。


部室へ向かいかけると栄口が、
「先に行ってて。」
と逆方向へ。
「何だ?用事あったのかな?」
「…便所だろ。腹押さえてた。」
…そんなプレッシャーだったか、練習内容。
栄口も結構ネガティブなとこあるもんなぁ。
そんなことを考えながら、部室で着替えた。


まあ、俺もネガティブなとこは相変わらずだし、栄口のことどうこう言えねぇか。
三橋には適わねぇけど。
俺も三橋も、某海賊漫画の狙撃手並みにネガティブかな。
そしたらあのネガティブになる技は効かねぇよな…
田島と阿部はすげぇ効きそう。
わーそうだ、絶対効くよな〜。


「おい、ハゲ。」
「って、ハゲじゃねぇって!坊主だ!」
「んなのどっちだっていい。お前何ニヤニヤしてやがる。気持ち悪いんだっつうの。」
顔に出てたか…
でも気持ち悪いって…一応俺達付き合ってんのに、そりゃないだろ。


ずっと友人としての好意だと思って阿部を見ていた。
それは多分、阿部も同じだったんだと思う。
だけど阿部の誕生日に、女子からプレゼント貰ってる阿部を見た時、俺は違うと気が付いた。
その日の帰り、俺は阿部にキスをして、阿部はそれを受け入れた。
キスをした後、俺の服の袖をキュッと握り締めた阿部を見た時、すげぇ可愛いと感じた。
阿部が男だからとか、そんなんどうでもいいって思えた。


はっきりと好きとか言った訳じゃないけど、そんなことで付き合うようになった、のに。
目の前にいるのは、ものすごい勢いで睨み付けてるたれ目の野球馬鹿。
「…何でもないって。」
「ふん。どうせろくな事じゃねぇんだろ。」
はい、ろくな事ではありませんよ。
あー何で俺、可愛いとか思ったんだろうなぁ。
色んなことがあって、栄口には話したんだけど、
「可愛い?!阿部が?!」
って言われたっけなぁ…


「花井。」
「ん?」
差し出されたものは、板チョコ。
うん、ごく普通なやつ。
「え?何?」
「やる。」
「くれんの?嬉しいけど、なんで?」
受け取って、裏を引っ繰り返したりして。
怪しいとこはない。
「…別に変なもんなんか入ってねぇよ。」
「いや、分かってるけど、阿部が俺に物くれるなんて珍しいからさ。」
珍しい。
ホントに珍しい。
…いや、もしかしたら初めてかも。
そう思ったら、何かすげぇ嬉しくなって…
ヤバい、俺今確実にニヤけてる。
気が付くと、阿部は俺の顔を覗き込むように見ていた。
…また厳しい突っ込みが入るのか、と思っていたのに。
俺は信じられないものを見る。
阿部が、赤い顔して照れ臭そうに俯いたんだ。
嬉しそうで、何か恥ずかしそうで、。
そう、正にはにかむってこんな感じ。
「…阿部……。」
「お前さ、バレンタインの日のこと、覚えてるか?」
「え?」


2月14日。
野郎共が一喜一憂する大イベントな日。
野球部の面々も何人かチョコを貰ってるヤツがいた。
俺もだし、阿部だって貰っていた。
だけど数が…何故か俺が一番多くて。
「何で花井こんな多いのーー?!」
って水谷は大騒ぎするし、誰に貰ったんだと泉が茶化すし。
うっせーよっ!!って誤魔化したりしてたんだけど。


「花井、何か嬉しそうだった。」
「へ…え?!」
「…嬉しそうだった。」
「や、だってあの場ではそんな顔してねぇと大ヒンシュクだろうがよ?」
まあそうだけど、と言って阿部は俺に背を向けた。
それからちょっと間を置いて言った言葉に、俺は更に驚く。
「あんな顔、俺はさせられるのかなって…何か気になって。」
顔は見えないけど、真っ赤な耳が阿部の気持ちを教えてくれる。
ああやっぱり、こいつ可愛い。


後ろからそっと抱き締めて、耳元で囁く。
「俺、すげぇ阿部が好きだ。」
「……あんまはっきり言われっと、恥ずい。」
可愛いし、好きだし。
あーもうどうしてくれよう。
阿部には適わない。
阿部は俺の中で、最強。


「やーっばいっ!遅くなった!!」
ものすごい勢いで部室のドアが開いて、飛び込んで来たのは栄口で。
ちょっと長い沈黙の後、栄口はニッコリ笑いながら言った。
「部室では、ダメって言わなかったっけ?」
あ、目が笑ってねぇ…。


前言撤回。
最強、栄口。


 

◇ バレンタイン後日談という設定で書き始めました。思ったより出来がいい?(自分で言うな)
  花井と阿部はこんな関係だとうれしい。そして栄口が締めてくれるとなおのこといいww



2012.03.12



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