『帰り道』




「俺、本屋に寄って帰るわ。」
「…俺も行く。」
「なんだよ、阿部も欲しい本あんのか?」
「…いや。付き合ってやるよ。」
「え?そ、そうか…。」

 

阿部も、俺も、
お互いに同じ想いだと知ってからも、
俺達は変わらない日常を過ごしていた。
ミーティングが早く終わり、久しぶりに早く帰れるから、
前から欲しかった本を買いに行くと阿部に話すと、
付き合ってくれると言ってくれた。
俺は阿部と2人でいれると言う事実に嬉しく思っていた。
だけど阿部の仏頂面を見ていると、
疲れてるのに無理してるんじゃないかとも思った。
何しろ毎日の練習でグッタリだから、
暇があったら眠りたいと言うのが正直なとこだった。

 

「悪いな、買い物付き合わせて。」
「いいよ、別に。」
「でも練習毎日キツいし、ミーティングの日くらい早く帰りたいだろ?」
「…花井。」
「あ?」
「お前鈍過ぎ。」
「はぁ?」

 

上目遣いで阿部が俺を見た。
なんだか…怒ってる?いや、不貞腐れてるような?
鈍いって…何だよ、俺お前の身体心配してんのに。
言われている意味が掴めなくて、(多分)憮然とした表情の俺を見て、
阿部は小さくため息をついた。

 

「こんなでもないと、2人でなんていられないだろが。」
「あ…」


阿部は俺と同じ気持ちでいたんだ。
え…じゃあなんであんな顔して?
全然楽しそうでも、嬉しそうでもなかったじゃ…。
確かめるようにもう一度阿部の顔を見ると…
顔が真っ赤、耳まで真っ赤。

 

「言わすなよ、いちいち。」
「…」

 

そうだ、阿部は…
すごくすごく意地っ張りで、
恥ずかしがり屋で。
だからあの仏頂面は、どうしたらいいか分からない、
そんな阿部の気持ちの表れなんだ。

 

「…んだよ。」
「…んでもねぇ。」


バツが悪そうな阿部を見てると、
何だか嬉しくて笑ってしまう。
こんなことが照れ臭い阿部が可愛くてしょうがない。
そんな顔を見せられたら…。


どこの路地に引っ張りこんで、抱き締めてやろうかなんて、
ちょっと本気で考えた。

 



●初ハナベ。ここからハナベに転がって行きましたw




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