『Happy  Weeding  Side:F』





呼び鈴が鳴り、「やっと帰ってきたか。」などと独り言を口にしてドアを開けると、
待ち人は思いもよらない物を手にして立っていた。
微妙な間。
「…ただいま。」
「…おう。」


そのまま部屋に入って、あー疲れたとソファーに腰掛けた花井の隣に同じく座り、
根っからストレートな性格なので、取り敢えず聞く。
「何だ、それは。」
「…妹から貰った。」
「いや、だから…」
「ブーケだ。」


妹が結婚するからと言って、花井が実家へ帰ったのが三日前。
一人で過ごす時間が出来ると内心ちょっと嬉しかったのだか、
実際一人で過ごしてみると、何だか少し…いやかなり物足りなくて。
俺の中で花井が占めている部分のデカさに感心するやら呆れるやらの三日間だった。


「ブーケは見りゃ分かるよ。」
「…だよな。」
「何でお前が持ってんだって話だろ。」
「…やっぱ変だよなぁ。」
「いや、変っつうかさ…」


言い掛けて、変だな、と改めて思った。
ガタいのある花井が小さなブーケをチョコンと持っている姿はなかなか滑稽だ。


「お前…それ持って電車で帰って来たのか。」
「…うん。」


真っ赤になる花井には悪いが、これは笑わずにはいられない。
ここは盛大に笑わせて貰った。
花井は、そんな笑うなよと力なく言った。
笑う俺の気持ちもよく分かるとでも言いたそうな目で。


「だってさ…真剣に言うからさ。」
「ああ?何が?」
「阿部と、幸せに…って。」
「へ?…あ…俺?!」


あいつら気が付いてたらしいんだよ、俺達のこと、と花井は溜め息をついた。
俺は事態が飲み込めず、ポカンと花井を見ていた。


「ブーケトスするじゃんか。そん時俺に寄ってきてさ、何するかと思ったら『はい、お兄ちゃん。』だもんなぁ。」
花井は思い出すように視線を天井へと向けた。
「親戚連中は『そうね、次は梓くんね』なんて笑ってたけど、妹のやつ……」


『阿部さんのこと好きなんでしょ?だったら阿部さんと幸せになってよね。』


やってくれる、花井の妹とは思えない。
驚きで声は出せなかったが、その気持ちは嬉しかった。
花井はブーケを俺に手渡すと、
「そんな訳だから、」
と真っ赤な顔で言った。
「は?何が?」
「それを言わすか?!話の流れで分かんだろ?!」
「分かんねぇから聞いてんだろ!」
互いに眉間に皺寄せて、噛み付かんばかりの勢いで怒鳴り合う。
かと思ったら、花井にギュッと抱き締められて。
「俺な、幸せなんだよ。すげぇ幸せ。」
背中に回ってる手に力が入る。
「これ以上の幸せ、ないような気がしてて。バチ当たんじゃないかとかさ。」
花井らしい、実にネガティブな発想。
「でも、望んでもいいのかなって思った。これ以上の幸せをさ。」
一呼吸置いて、身体を離すと俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
「俺、阿部とずっと一緒にいたい。阿部の傍にいたい。」
「…今更だろ。」
「あっさり言うのな。」
苦笑いする花井に、俺は言った。


「おれらはすでにお前の妹よかずっと幸せなんだから、ブーケ貰う意味はない。」
「は…」
しばらく唖然としていた花井が、気分悪そうに顔をしかめた。
「じゃあ、電車の中で恥ずかしい思いをした俺の苦労って…」
「無駄。」
ハッキリ言い過ぎだろ!と怒る花井にゴメンゴメンと笑いながら謝った。


花井がいないのなんて考えらんねぇ俺に、そろそろ気が付いてもよさそうなもんなのに。
たった三日間だってもたねぇっつの。
お前はどうだったんだよ、なあ、花井。


ブーケをどこに飾るかが目下の悩みらしい花井を見ながら、そんなことを考えていた。



● やっぱハナベはこうだよね。
  ベタすぎてごめんなさい。
  「結婚式」ってちょっとネタ振りがあって、振ってきたWeddingネタです。

  同ネタで、ONE PIECEでも書いてます。
  よろしければ本館へどうぞw


2010.05.29




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