『熱い身体』
花井のキスが降ってくる。
ベッドに押し倒されて、花井の熱い身体が押し付けられると、
それだけで頭がなんだか痺れるような感覚に陥る。
花井が俺を抱いている。
それがなんだか…
偽りのような気がして。
俺が花井を、
チームメイト以上に、
クラスメイト以上に、
親友以上に、
花井にとっての特別の特別になりたいと言う目で見るようになったのは
夏大が終わってしばらくしてからだった。
そんな想いを抑えようとすればするほど、膨れ上がるかのように想いは強くなる。
どれだけ溜め息をつき、どれだけ歯を食い縛っても消えない想い。
いっそこの想いごと、自分自身が消えることが出来たらどんなに楽だろうかとも思った。
言える訳ねぇだろ…
伝えるつもりなんて全然なかった。
花井を困らせたくない。
その上避けられるのは目に見えてる。
それだけは嫌だ。
だけど…
「俺、好きなんだ。花井のこと。」
「え?…好きって…俺?」
「ああ。」
「…そう、か…」
いつものキャプテン会議。
栄口が少し早く帰って、二人きりで自転車置き場に向かう途中で、俺は想いを告げていた。
なんで?
分かんねぇ。
ただ、抑えきれない想いだったのは間違いない。
今考えるととんでもない行為だが、花井はそれ以上何も言わず、本当に普通に下校をした。
避けもしない。
まるで何もなかったかのように。
次の日からの花井はそんな感じだった。
もちろん、避けられなかったことには感謝したが、俺の中に小さな欲望が生まれた。
(もしかして、分かってくれるのかもしれない)
俺も何もなかったように振る舞った。
二人きりになるのも避けた。
水谷か、栄口か。
必ず誰かが一緒だった。
そして、なるべく一緒に行動した。
以前よりも、もっともっと。
一緒にいる時間を増やした。
花井にとって、俺がいて当たり前になるように。
「…花井…。」
「一緒に帰ろうぜ。」
部誌を書いて、鍵を職員室へ持って行って、自転車置き場へ来たら花井が待っていた。
変わらない笑顔。
揺るがない瞳。
花井は…俺を信用しきっているのだと思った。
そう思った途端、虚しさと切なさが襲ってきた。
俺は、どうしたかったんだっけ。
「待ってなくて良かったのに。」
「何だよ、せっかく待っててやったのによ。」
笑う花井を見ることが出来ない。
鼻の奥がツンとして、熱くなるのを感じていた。
他愛ない話をし、別れ道まで来て、花井の様子が変わったことに気が付いた。
「花井、どうかしたのか?何か変だぞ?」
「あー…うん。ちょっと話がある。」
「うん?」
辺りをキョロキョロと見渡して、誰もいないことを確認してるみたいで。
それから真っ直ぐ俺を見て言った。
「阿部は、本気で俺が好きなのか?」
「!!」
心臓を鷲掴みされたような痛み。
そして身体から発する熱。
「な…なんだよ急に。そんなこと聞いてどうすんだよ。」
「…確認しときたかったから。」そう言うと、花井は俺を抱き締めた。
何が起きているのかさっぱり分からなかった。
戸惑いながら花井の顔を見上げると、真っ直ぐに俺を見つめていた。
「阿部。」
「…なに?」
「付き合おう、俺達。」
「…へ?!」
花井は驚く俺をギュッと抱き締め、それからそっと優しいキスをした。
人目を忍んで合うようになった俺達は、次第に身体の関係を持つようになった。
俺を抱く花井は優しくて、温かくて…いや、とても熱くて。
その熱に触れる度に、花井をこのままにしておいてはダメだと思った。
花井は優しい。
なのに俺は、我が儘言って、いつも困らせて。
「別れないか、花井。」
「は?え、何で?!」
「…何でも。」
「何だよそれ。訳分かんねぇこと言うなよ!」
苛立つ花井がテーブルを力一杯叩いた。
見たこともない剣幕に俺が驚いていると、花井はフイと顔を背けた。
「…何でもお前の言う事を聞くと思うなよ…俺にだってちゃんと気持ちはあるんだ。」
「…花井…」
「お前だけが好きなんじゃない。俺だって好きなんだから。」
こちらに向き直ると、花井はいつもの優しい笑顔だった。
「阿部はいつも一人で考え過ぎだ。俺そんなに頼りないか?少しは…俺に甘えてみ?」
俺を引き寄せて抱き締めると花井は頬にキスをした。
「じゃねぇと、俺寂しいんだけど。」
耳元でそう囁かれて、一気に身体が熱くなった。
「花井…意外とタラシだな。」
「ん?心外。阿部だけにしか言わないのに。」
顔を見合わせて笑う。
そう言えば、二人でいる時にこうして笑うことが今までにあっただろうか。
唇を重ねて、身体を合わせて。
握られた手がなんとも言えずくすぐったくて。
「知らねぇぞ。もう別れねぇからな。」
「こんな可愛い恋人、別れるわけねぇよ。」
フフッと笑う。
花井がまた耳元で囁いた。
「誕生日、おめでとう。」
「おう。」
これからも、ずっと一緒に。
甘えさせてくれるお前と。
●阿部誕SS。頭のいい二人はぐるぐるがお似合いw
2009.12.11
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